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『DNA鑑定のはなし』を読んだが

DNA鑑定のはなし

裳華房の「ポピュラーサイエンス」シリーズに、
『DNA鑑定のはなし』(福島弘文著)という本があります。
一般向けのDNA鑑定のお話で、著者は法医学を研究されているかたです。
DNA鑑定の基礎知識を簡単にお話したあと、親子鑑定や犯罪捜査で、
実際に個人識別をするお話が、紹介されています。

bk1のサイトの解説は、こんなふうになっています。
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社会生活の中で法的な争いに関与する問題を
生物科学的手法によって解決する「DNA鑑定」と
その周辺の事象について一般の人を対象に、科学と法律の両面から解説。
実際にDNA鑑定が行われた国内外の事件も紹介する。
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2章が親子鑑定のことで、5節の見出しが、
「離婚後300日以内の『子』は前夫の籍に」となっています。
ここで、女性だけ、180日間の再婚禁止期間があることも、
触れられているのですが、福島氏は、こんなことを書いています。
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離婚後男性はすぐにでも婚姻届けを役場に提出できますが、
女性には180日の再婚禁止期間があることを
ご存知ない方も多いのではないでしょうか。
この点については何となく納得できないと感じる女性もいるでしょうが、
現実には生まれてくる子どもの父親が断定できなくなることを
避ける意味からもやむを得ないことです。
========(53ページ)

いきなり現行民法肯定で、女は差別されてもしかたない、ですよ。
これに対するよくある反論が、「関係が破綻していれば、性交渉はない」
だからだというのでしょう、こんな例をあげて
「こればっかりは、なんとも言えない」などと言うのです。
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夫が入院中で別居状態にあり、妻が他の男性と同居し、
その間に子が生まれたケースについての鑑定依頼が家庭裁判所からありました。
この場合、同居していた男性は生まれた子が自分の子だと
信じていたようですが、鑑定結果は入院中の夫の子でした。
一般的には夫婦関係が破綻して同居していても完全な離婚状態であれば
性的関係は無いものと考えますが、こればかりは何とも言えません。
========(53ページ)

現実にを言えば、関係が破綻して、本当に交渉がないこともあるし、
長いこと別居どころか、所在さえわからないこともあります。
前夫の子でないことが、状況から明らかなことも多いのに、
こうした例を持って、有無を言わさず再婚が禁じられるのは、
「何となく」どころか、ものすごくわたしは納得できないです。

じつは、上述のケースは、当の女性には心当たりがあって、
入院中の男性の子の可能性が、ありそうだったから、
家裁は鑑定を依頼したのではないかと、わたしは想像します。
(さらに言えば、「180日の待婚期間」とも「300日規定」とも、
関係ないケースなのではないかと、わたしは邪推するのだが...)


法律婚状態のときしか、性交渉はしないなんてことはなく、
婚外でも、婚前でも、きょうびは、めずらしくなくあるでしょう。
だからこそ、例に挙げたケースも出てくるのだし、
この本には、複数の異性との交渉や(56ページ)、
「できちゃった婚」のお話も出てきます(58ページ)。
(鑑定と関係ないのに、避妊法の解説までしている(60ページ)。)
それで、待婚禁止とか、たどたどしいことはやめて、
疑わしいと思ったら、全部親子鑑定にしようという主旨のはずです。

それとも、複数の異性との性交渉も、できちゃった婚もあるけれど、
再婚を一定期間禁止された女性だけは、絶対に性交渉はしないなんて、
福島弘文氏は、まじめに信じているのでしょうか?
もしそうなら差別的に加えて、非現実的でさえあると思います。

よくわからないですが、法医学者は、警察や司法から
与えられた問題を解くことしか、関心がないのかもしれないです。
鑑定によらず、法律に従うだけで、嫡出関係が決まる場合は、
それが生物学的な、実の親子であろうとなかろうと、
さしたる興味がないのかもしれないです。

親子関係を、「科学的に」取り扱うのだから、法医学者というのは、
家族法に対する考えかたも、ずっと理性的なのだろうと思っていた、
わたしは、ひどく失望したことを、付け加えておきます。

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