反対論者の中には、苗字は外(社会)の名前だから、
社会に出て働く夫の苗字が家族の苗字となる、
妻となった女性は、家庭に入るのだから、
それを名乗るのはとうぜんだ、なんて言う人もいます。
この考えの差別性は言うまでもないと思います。
一般に収入を持って来るほうが優位ですから、
自分の収入がない女性は、立場が不利になりがちです。
もちろんライフスタイルの自己選択にも反します。
また夫婦共稼ぎでないと、家計が支えられない家庭もありますから、
経済的な問題の解決にも抵触します。
こういう差別的な考えを、なぜに臆面もなく言えるかというと、
夫が外で働き、妻が専業主婦となって家を守るのが、
日本の「伝統」だと信じているみたいだからです。
1988年に、男女雇用均等法が施行されたときも、
「文化の生態系の破壊だ」などと、猛烈に反対する人もいました。
「専業主婦」というのは、19世紀になって、
資本主義の発達とともに台頭してきたブルジョワの
ライフスタイルからはじまったものです。
最初に広まっていったのはイギリスで、
それからほかの欧米諸国にも広まっていくのですが、
それでも200年程度の歴史しかないものです。
日本で定着するのは、もっと最近の高度経済成長期です。
戦後に入ってからの、さらに限られた時間にすぎないです。
もともとは、ヨーロッパから輸入したライフスタイルだし、
定着した期間もごく短いのであって、
「日本の伝統」でもなんでもない、ということです。
もちろん、苗字は社会の名前なんて意味付けは、法的にもないですし、
日本の「伝統」であったことさえ、まったくないですよ。
明治以降にかぎって言えば、近代家族制度が整うと、
苗字は「イエ」の名前とされました。
戦後の新民法によって、「イエ制度」がなくなったので、
現在では「イエ」の名前という意味付けもなくなっています。
「苗字は社会の名前」というのは、おそらくは、
くだんの反対論者が、選択別姓反対のために、
思い付きで考えたものに、すぎないのだろうと思います。
|