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婚氏続称とその経緯

婚氏続称の経緯

離婚した場合、結婚改姓していた側は、
かならずしも婚姻前の苗字に戻す必要はありません。
旧姓に戻るか、婚姻時の姓を名乗るかを選択できます。
離婚後も婚姻していたときのの苗字を
名乗り続けることを、「婚氏続称」と言います。

離婚して旧姓に戻るときは、新しい戸籍を作るか、
結婚前の戸籍に戻るかを選ぶことができます。
婚氏続称のときは、かならず新しい戸籍を作ることになります。
(ひとつの戸籍の中に複数の苗字の人は入れないため。)


「婚氏続称」は、1976年に法律が改正されて導入されたものです。
その経緯については、つぎの資料に書かれています。

「戦後後半期の離婚紛争の増加と社会情勢(1)」

離婚して苗字が変わると、プライバシーが暴露されたり、
職業上や社会生活上の不利益を被ることがあります。
また、子どもがいる場合、多くは母親の戸籍に入れるので、
子どももいっしょに改姓することになります。
そこで、離婚したあとも、改姓しないですむよう、
婚姻中の苗字を続けて名乗れるにする要望が、高まってきました。


ことのはじめは1948年、国会議員から起こりました。
婚氏で政治活動を行ない、広く知られるようになったので、
離婚で苗字が変わると、議員活動に深刻な
影響をもたらす、というものでした。
ところがそのころの裁判所は、「離婚改姓しても
職業上のキャリアに影響はなく、日常的には婚姻中の苗字を
通称使用できるから問題ない」という、消極的な態度でした。

それでも、1960年ごろになると、
「苗字のために人間が難渋することがあってはならない」と、
裁判所は、しだいに積極的になっていきました。
そして、離婚改姓は本人に不利益をもたらす、という主旨の、
1964年の広島高裁判決は、その後の通説的なものとなりました。

その後もしばらくは、「婚氏続称」のためには
裁判所の複雑な手続きが必要だったのですが、
1976年の法律改正で、ようやくお役所の書類だけで、
手続きができるようになったのでした。
これは離婚にともなう大きなハンディキャップをぬぐい去るとして、
多くの女性たちを勇気づけたようです。


ようするに「婚氏続称」は、いまの選択的夫婦別姓と、
導入のモチベーションも経緯も、そっくりということです。
(なんだか古きをたずねて新しきを知るようですね。)
それならば、離婚時の改姓と同様、結婚したときの改姓は
その当時は問題にならなかったのか、という疑問が出て来ます。

1970年代はウーマン・リブの時代でしたが、
急進的な考えかたの人が多く、結婚制度自体に否定的で、
結婚する人は事実婚を選んでいました。
つまり、制度の変革よりも、制度の否定に向かってしまい、
選択別姓を求める動きにはならなかったのでしょう。

また、一般の人たちは、いまより結婚が早く、
結婚前のキャリアがすくないので、結婚改姓が深刻でなかったり、
結婚したあとも働き続ける環境にとぼしく、
お仕事を続けられなかったので、職業上の不利益が
あまり問題にならなかったのでした。

1970年代は、思想面でも、実用面でも、
選択別姓の必要性が、あまり取りざたされなかったのでした。
それゆえ積極的に導入を求める動きがなかったものと思われます。
選択的夫婦別姓を求める動きが顕在化してくるのは、
1980年代に入ってからのようです。

謝辞1
コンテンツの最後の部分は、こちらのエントリのkirikoさまのコメント
(2010年08月06日 01:12)を参考にしました。
またkirikoさまから、(2010年08月04日 01:34)のコメントで、
広島大学の資料を教えていただきました。
まことにありがとうございました。

謝辞2
この問題に関心を持ってくださり、こちらのエントリ
TBを送ってくださった、おこじょさま、ありがとうございます。


参考文献、資料

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