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あまりに保身的な
野党や国粋主義に対する萎縮

あまりに保身的な(2)

9月の代表選では、小沢氏を退けて再選した菅直人氏でした。
参院選のころ、最低にまで落ち込んでいた
政権支持率も、じつはちょうどそのころ回復して、
政権発足当時に近くなっていたのでした。

しかし、この高い支持率も長く続かず、ほどなくして、
支持率を引き下げられる事件が、相次ぐことになります。
しかもそのほとんどは理不尽なことだったりします。

2010年10月のはじめに尖閣諸島沖で、中国の漁船と、
日本の海上保安庁の船が衝突する事件がありました。
事件に収拾がついたと思ったころ、船が衝突する場面のビデオが、
「YouTube」にアップロードされたのでした。

衝突の現場の映像を見ると、ふたたびナショナリズムが高揚、
自民党や国粋主義者たちは、またしてもお騒がしくなり、
おとなしくなりかけた世論の不満もまた高まったのでした。
ところが菅政権は、じゅうぶんな対処ができず、
国粋主義的な雰囲気の中、世論に叩かれて、
政権の支持率を下げるだけでした。

ビデオの漏洩犯は海上保安庁の職員でした。
ひとりの下級公務員のしわざで、霞ヶ関の意思は、
おそらくなかっただろうと思います。

この事件のもっとも深刻と考えられることは、
官僚機構にとって政権が気に入らないとき、
国民をあおれる情報を不正に漏らすことで、
政権を攻撃できる可能性があることを示したことです。
ところがこうした批判は、世間的にはほとんど見られませんでした。


11月に柳田氏の「法相とは二つ覚えておけばいい」発言が、
国会軽視だとして、批判されることになります。
こんなのはすべったジョークで、大げさに騒ぐのが異様なことです。
すくなくとも、ヨーロッパの民主主義国ではそうです。
「女性は産む機械」発言のような女性差別発言で
大臣が辞任しないのが、ヨーロッパでは異常だったりします。

ところが、自民党などの野党や世論の吹き上がりに対して、
菅政権は効果的な対処ができなかったのでした。
これによって、政権の支持率が下がってしまい、
結局柳田氏は法相の辞任にいたることになります。


そのあと、仙谷官房長官の「自衛隊は暴力装置」発言が、
自衛隊の威信を傷つけたとして、猛烈な批判を浴びることになります。
国粋主義者たちは、まったく無関係なはずの、
仙谷官房長官の過去の経歴とこじつけて、
仙谷氏のことを「左翼的」とまで言うのでした

ところが、軍隊が「暴力装置」と言うのは、
ウェーバーの著作にも出てくるし、政治学や社会学で
ふつうに使われていることです。
しかし、民主党政権は、「暴力装置」発言が、
なにもまちがっていないことを示せなかたのでした。
そして、自民党などの野党や、それにあおられた
世論に叩かれて、支持率を下げるだけでした。

11月の下旬に、北朝鮮による韓国への砲撃事件が起きます。
これを受けて、くりかえしの協議を経て、ようやく決まった
朝鮮学校の無償化適用を、菅政権はとつぜん停止したのでした。
文科省の官僚さえもきゅうな豹変にとまどうくらいです。
しかもなにを思ったか、菅首相直じきの判断です。

わたしの憶測ですが、尖閣ビデオや「失言」で、
すっかり萎縮したので、自民党などからの攻撃を
先回りして防ごうとしたのではないかと考えています。
つまり、国粋主義者たちに叩かれて、世論をあおられて
支持率を下げられないようにという、自己保身だと思います。


12月には、菅首相は拉致被害者の救出に
自衛隊を出動させることを、検討したりします。
現行法では自衛隊はそこまで権限がないし、
韓国側も、歴史的経緯ゆえに、日本の自衛隊が
入ることへの抵抗がきわめて強くなっています。

無知と配慮の欠如を、菅首相は批判されるのですが、
これも「国士さまのみなさんも理解しています」と
アピールして自己保身をはかろうとして
すべったのではないかと、わたしは憶測していますよ。


2010年の暮れも押し迫ったある日、
朝鮮学校の無償化停止をこのまま続けると、
行政手続き法違反で、裁判に訴えられて敗訴する
可能性があることが、文部科学省から指摘されました。

実際に、東京、愛知、大阪などの朝鮮学校は、
国家賠償訴訟を起こそうとして、動きはじめました。
9月のはじめに提訴するべく、準備を進めたのでした。(注1)

可能であれば、どしどし裁判に訴えたほうがいいでしょう。
いかんせん、叩いてびびらせたものの勝ちという状況に、
菅政権はなっているからです。
そうした相手には、自己保身のために筋を曲げたら、
正当な批判を受けて、もっとこっぴどい目にあうことを
知らしめたほうがいいと、わたしは考えるのですよ。

(注1)
菅首相は辞任する直前の8月29日に、
とつぜん朝鮮学校の無償化審査の再開を、指示したのでした。
国家賠償訴訟に持ち込まれる直前のことです。

民主党の拉致対策本部は、再開指示に抗議をしたのですが、
菅首相は多忙を理由に面会を断わりました。
ようするに抗議は無視ということだと思います。
さすがに、自己保身のために筋を曲げていた、
とは言えなかったのだろうと思います。

朝鮮学校無償化の再開

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