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民法改正運動の展開 - 2006年
民法改正運動10周年(2)

2月22日に開かれた、mネットの集会のことが、
3月14日の読売新聞の『スキャナー』に、取り上げられました。
(半月以上も経ってなぜきゅうに?という感じですが。)
「民法改正『答申』放置状態 夫婦別姓棚上げ10年」
つぎのエントリに全文が出ています。
http://transnews.exblog.jp/2839685/

いちばん大きな見出しの隣に、集会の写真が出ています。
民主党の枝野幸男議員が、立ってスピーチしているところです。
自民党中心的な構成でなくてよかったと、コメントしておきましょう。
「改革を叫ぶ小泉首相が、なぜ手を着けないのか。
この問題が解決しないことで、結婚をためらっている人もいる」と
その枝野幸男議員は、しゃべっていたのでした。
押さえるべきところを、押さえたという感じですね。

こうもうしてはなんですが、コイズミカイカクは、
民法改正問題には、たいして役に立たないと、わたしは見ています。
いままでの経緯を見ても、小泉首相は、民法改正には興味がなさそうです。
となれば、強硬な反対派を相手に、なにかしようとは思わないでしょう。

わたしが思うに、小泉首相は、自分の政敵を攻撃することが念頭にあり、
その目的に沿っていないと、「カイカク」には乗り出さない感じです。
女性閣僚を何人も登用するなど、女性に開かれたイメージがあるかたも
いると思いますが、これもジェンダー問題に理解があるよりは、
人気取りが意識されているように思います。


『スキャナー』の記事ですが、民法改正法案は、
法制審議会の答申が、10年も「たなざらし」にされるという、
異例の事態であることが、リードのところに書かれています。
実際、このような「たなざらし」は、数件しかないことです。

本文のはじめのところは、集会に参加したかたたちの、
発言が紹介されていて、集会のようすがある程度うかがえます。
ここを見ると、法案実現の見込みがまったくない、
参加者たちの無力感やいらだちが伝わって来ます。

そのつぎの節が、わたしにとってはメインと思うところで、
民法改正法案が、自民党の反対派のために実現しない事情です。
「家裁認可制」が出た、2002年から最近のようすが中心に書かれています。
前のページでご紹介した、朝日新聞の『私の視点』は、
1996年から2002年ごろまでが、くわしく述べられているので、
両方の記事をご覧になれば、見通しがよくなるのではと思います。


選択別姓のところの最後は、世論調査のことに触れています。
前回01年の調査で、はじめて賛成が反対を上回ったことが出て来ます。
これに関係して、「多様な価値観に配慮を」という囲み記事があり、
「少数者の権利にも思いを至らせることができるのか。
民法改正は、まさにこの点が問われている問題だ」のような、
おさだまりのことが、すこし書かれています。

2006年度にも、5年ぶりに、世論調査を行なう予定があります。
ここにmネットの坂本氏のコメントがあるのですが、
「次回も賛成派が反対派を上回れば、議論再開のきっかけに
なるのではないか」と、期待しているとあります。
期待するものが、法案の実現から、議論再開になったというのは、
やはり後退したのだと言わざるをえないですが、
それでもふたたび世論が喚起されれば、それにこしたことはないでしょう。

自民に強硬反対論
さきにお話しした、わたしがメインと思うところを中心に、
記事の夫婦別姓のところは、半分以上が自民党の批判に取られています。
おもにまんなかの節「法案に結びつかず」で、その様子が書かれていて、
「自民に強硬反対論 修正案もダメ」と、中見出しがあるくらいです。

はじめに、1996年に作られた、法制審議会の民法改正法案が紹介され、
自民党内の反対派対策として婚外子の切り離しと、
家裁認可制を導入した、「例外制」のことが出ています。
そこまで譲歩しても、反対派は強硬な反対を続け、自民党内の議論は、
2004年の法務部会で、ついに途絶えたことも書かれています。

そのあとの自民党のようすも、書かれているのですが、
「例外制でもダメならもう無理と言う雰囲気になってしまった。
しかし、不便さや苦痛を感じている人がいる以上、
解決を考えるのは政治の責任だ」(菅義偉議員)とのことです。
反対派の無責任さを批判しつつも、すっかりさじを投げている感じで、
議論がなされなくなったのも、このためのようです。


それだけでなく、議論を繰り返すごとに、強硬な反対派議員たちの
「対応が硬直化していると感じた」ともあります。
これは反対派の急先鋒である、高市早苗議員の印象であって、
推進派によるものではないので、信用してよいと思います。

一般に、「とんでも」の信者は、説得しようとしても逆効果で、
かえって前より、かたくななビリーバーになることが多いです。
それゆえ、たいていのにせ科学批判者は、
ビリーバーの説得は、やめたほうがいいと言います。
選択別姓の反対論者たちは、この点においても、
「とんでも」の信者と精神構造が、同じもののようです。


また前の節(「無力感」)の最後には、法相として、
法案実現のために、ながく関わってきた、森山真弓議員による、
「党内に強硬な反対意見があり、議論が停滞している。
早く具体的な解決方法を考えていかないといけない」と、
自民党内の反対派のせいだと、はっきり述べたコメントが出ています。

さらに、つぎの節(「世論調査に望み」)のはじめには、
自民党以外の政党がどうしているのかも書かれています。
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与党の公明党には別姓導入に理解をしめす議員が多いが、
自民党が党内合意にほど遠いので、
「こちらから提案する状況ではない」(中堅議員)。
民主、共産、社民各党は、法制審議会に沿った民法改正案を
繰り返し国会に提出しているが、ほとんど審議されず
廃案や継続審議になっている。
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公明党も、かたくなな自民党の反対派議員たちの前に、
これまたすっかりさじを投げているのでしょう。
野党各党による法案提出が、いつもまともに審議されないのも、
議会多数派の自民党が、相手にしないからにほかならないです。


全体的には、民法改正法案が実現しない最大の原因は、
自民党内の反対派であることが、よく書いてあると言えます。
彼ら反対派の頑迷な反対の前に、市民団体や、他党はもちろん、
自民党内の推進派でさえ、どうにもならないことがわかるでしょう。

前のページで、この手の記事を見ると、自民党の批判あるか、
反対派の頑迷さに言及はあるかを見ると、わたしは言いましたが、
これくらいでしたら、じゅうぶんだろうと思います。
この記事を読んで、だれのせいで法案が実現しないのか、
理解したかたは、つぎになぜにここまで、彼ら反対派たちは
執拗頑迷に反対をするのか、その精神構造を調べることになります。

非嫡出子の相続差別も
左下の仕切ったスペースでは、婚外子差別のことが出ています。
ここでも最高裁判決と、国連の勧告が取り上げられています。
はじめに、最高裁は1995年に、民法の法律婚主義を理由に、
婚外子の相続格差を合憲としたことが出てきます。
それでも、15人の裁判官のうち5人が、違憲としていて、
この判決が、法制審議会の答申にも影響を与えることになったのでした。

つぎが、最高裁判所小法廷で争われた、裁判のことです。
2003年以降4回あるのですが、そのうち、2003年3月に、
最高裁の第1と第2小法廷(それぞれ裁判官5人で構成)の両方で、
合憲と違憲とが「3対2」になったことが、書かれています。
さらにこのとき、合憲とした裁判官6人のうち、
「きわめて違憲の疑いが濃く、立法府による法改正を期待する」と、
補足意見をつけたかたが、ひとりいたことに触れています。

これは2004年10月に争われたもので、前のページでご紹介した、
朝日新聞『私の視点』で取り上げられたものとは、べつの裁判です。
婚外子の相続格差の違憲性については、最高裁小法廷では、
4回の裁判のあいだ、ずっと「3対2」が続いていて、
合憲としたひとりが、法改正期待などの
保留をつけることがあるという、膠着状態になっているのでした。


国連に関しては、2月21日の『私の視点』と同じことが出てきます。
1998年に国連人権委員会から、2004年には子どもの権利委員会から、
婚外子の相続格差について、勧告を受けたことが述べられています。
(ユニセフから、世界の6大子どもの差別に、
残念ながら選ばれたことは、出ていなかったです。)

非嫡出子の相続差別を、法律で規定しているのが、
日本とフィリピンだけとなったことには、触れられています。
これが、野党議員の質問趣意書に対する、
政府の答弁(2004年)の中で述べられたことも、書かれています。


国内政治の動きは、ここでも自民党が原因であるとして、
推進派が民法改正から、婚外子差別の撤廃を切り離して、
それっきり手付かずになっていることが、しっかりと書いてあります。
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だが、自民党内の議論は進んでいない。
法制審の答申を受け、夫婦別姓の党内合意を優先させようとしたが、
合意に至らないため、相続格差の議論も事実上、棚上げされている形だ。
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わたしが、注目したのは、「暗礁に乗り上げている
夫婦別姓問題とセットで扱われている限り、展望は開けない。
切り離して議論してもよいのではないか」という意見が、
野党議員から出てきた、ということです。
選択別姓のために、婚外子差別の撤廃を切り捨てた、
自民党の推進派や、インターネットの市民団体の逆の発想ですよ。
(本当に、選択別姓推進派の方針を、逆輸入したのかも...)

婚外子差別撤廃に対する反対論者の反対も、選択別姓とおなく、
頑迷きわまりないので、選択別姓を切り離したところで、
暗礁に乗り上げるだけだろうと、わたしは思います。
それでも、選択別姓を切り離して、婚外子だけにしたほうが、
実現が早いと思われはじめたことは、特筆しておきたいです。

高市早苗議員が、案を出した?
記事の左の仕切られたスペースの左の端に、
「民法改正を巡る主な動き」という、略年表が出ていますが、
ここにつぎのことが書かれています。
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04年3月
自民党法務部会が1年8か月ぶりに夫婦別姓を議論。
議員立法による法案提出に反対が相次ぐ。
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1年8か月ぶりですから、2004年3月の法務部会は、
2002年7月以来に開かれたと思われていることになります。
じつは、2003年6月にも、法務部会はあったのでした。
したがって、このくだりは、不正確になります。

このときの部会は、あまりにもあっけなかったので、
新聞各社も開かれたことを、知らなかったのだろうと思います。
野田聖子議員が、部会を開くよう、直談判して回ったことは、
ごく小さい記事で取り上げられたことがありましたが、
それからどうなったのかまでは、興味が持たれなかったようです。
06年4月現在も、あったことを知られないまま、ということになります。


もうひとつ、わたしが引っ掛かったのは、
高市早苗氏が、自分の考えた通称使用の法案を、
法務部会に提出したと思われることが、書かれていることです。
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高市早苗衆院議員は、以前、党の法務部会に、
公的な書類などへの旧姓併記を法律上認める案を出したが、
強硬な反対派から受け入れられず、「対応が硬直化していると感じた」という。
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「案を出した」部会とはいつなのか、という疑問がわきます。
2003年2月号の『婦人公論』で、佐々木知子議員が、
通称案は「法案としてはまだできていません」とコメントしています。
したがって、02年以前の法務部会ではないでしょう。
2003年の部会は、上述のように、新聞各社は存在が知られていないです。

2004年の部会のときは、高市氏ご本人は、落選中でいなかったですし、
「対案は心の中にある」なんて、へんてこな発言が、
反対派議員から出たらしいので、なにも提出されなかったのでしょう。
そしてこれ以後は、法務部会は行なわれなくなります。

こうなると、『スキャナー』に書いてある、出された案とは
なんなのか、いよいよもってわからなくなります。
もしかすると「法案」ではなく、2001年11月の法務部会で提案され、
01年12月25日の産経新聞に載せられた「構想」かもしれないです。

参考文献・資料
  • 読売新聞 2006年3月14日 『スキャナー』
    「民法改正「答申」放置状態 夫婦別姓棚上げ10年」
    つぎのエントリに全文が出ている。
    http://transnews.exblog.jp/2839685/
    中見出し:「自民に強行反対論 修正案もダメ」
    「非嫡出子 相続格差も 最高裁では『違憲論』次々」
    囲み記事:「多様な価値観に配慮を」

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