民法改正運動の展開
インターネットの市民団体



2000年6月の衆議院総選挙が、終わったころですが、
インターネットの別姓関係の掲示板に、
集まっていた人たちのあいだで、市民団体が作られました。

「氏名を大切にする市民の会」という名前なのですが、
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/8446
はじめは、民法改正に関した情報収集や、実態調査を行ない、
データを公表することを目的としていました。
おもな企業で、通称使用がどのくらい認められているか、
その実情について、アンケート調査して、
結果をウェブに載せていたこともあったようです。

電子メールで入会を受け付けていて、
会に入ると、中核となるメーリングリストがあり、
それに参加することになります。
入会は無料ですが、資金カンパはつのっていました。


会の性格上、民法改正に賛成の議員や政党に
偏りがちとしながらも、会としては、特定の政治家や政党を
支持するものではない、という運営方針を取っていました。

しかし、このような非政治的な立場は、表向きのものだったのでした。
会を作った本当の目的は、国会議員に働きかけて、
民法改正の実現のためにロビー活動をするという、
多分に政治的なものだったのです。

この会には、インターネットの、選択別姓に関係した掲示板などで
親しくしていた、多くのかたたちが、入ったようです。
それまでは、非政治的で、現状で別姓結婚をする際、
どうやって不便や不都合をしのぐか、といった意見交換を中心に
ネットの掲示板を使っていた、これらの人たちは、
しだいに、政治的な様相をおびてくることになります。


「氏名を大切にする市民の会」が発足したころ、
会の運営をどうするかについて、メーリングリストや、
オフの世話人会で、すこし議論になったことがありました。
代表世話人のかたは、自分のやりかたなら、
近いうちにかならず民法改正は実現するという、強い確信があり、
みんなも自分に、同調するものと思っていました。

ところが、ほかのメンバーの、だれもが賛同しなかったので、
いささか面喰らったというお話です。
結局、そのときは、会としては、特定の議員や政党を支持せず、
方向性をとくに定めないという、はじめに決めた方針を
確認することで、終わりました。


しかし、代表世話人のかたの考えは、すでに決まっていたようです。
自分の会を、あくまで、民法改正の実現を目指した、
政治活動のためのものとするつもりであり、
そのために、なかば強行的に、運営していくことになります。
(はじめから、そのつもりで作った会だったのでしょう...)

メーリングリストにポストされるメールは、
国会の状況や、議員個人についての情報が、ほとんどでした。
この議員さんは、熱心だからメールでお願いしなさい、とか、
あの議員さんは、反対だからメールは出さないように、とか、
そんなことが、細かく報告されていました。
(ちなみに、メーリングリストに流れるメールは、
外部に転載するのは厳禁でした。)

じつは、わたしも、この会に入っていたのですが、
わたしが入会したときは、すでにこのようになっていました。
それで、もともとから、そういうロビー活動のための、
市民団体なのかと、わたしは最初、思っていました。


民法改正の実現を目指す市民団体は、むかしからたくさんありました。
「民法改正ネットワーク」という、その当時存在していた、
30以上の市民団体をむすぶ、「超市民団体」とでも
言うべきものも、あったくらいです。

これらの団体も、97年あたりから、情報発信や、意見交換のために、
インターネットを使うようになってきました。
「氏名を大切にする市民の会」が、
従来の市民団体とちがうところがあるとしたら、
はじめから、インターネットを通じて活動を行ない、
メンバーも、インターネットの中で作った
人脈の中で築かれている、ということになるでしょうか。


絶対に民法改正が実現するという、自信たっぷりの、
代表世話人の考えとは、どんなものだったのでしょうか?
それは、簡単に言うと、現在政権を握っている、
自民党の推進派議員を応援する、というものでした。
自民党政権であるかぎり、そうせざるを得ないのだそうです。

また、いままで実現しなかったのは、
「自民党政権のうちは、どうせ実現しない」と決めてしまって、
あきらめていたからなのだそうです。
そうではなく、積極的に選択別姓の必要性を伝えていけば、
自民党の議員でも理解が得られるはずであり、
党としても、賛成に傾いていくはず、と考えていました。

さらに、こうして、国民のほうから積極的に働きかけて、
政治を動かしていくのが民主主義だ、という理由づけもしていました。
(しかし、自民党やその議員の意向に、添った活動をするというのは、
特定の政党や代議士を支持しないという、
最初の世話人会の決定に、反しているとも言えますが。)


反対派の扱いについては、やたら批判するから、
説得されないどころか、かえって、態度がかたくなになるのだそうです。
反対派の理解を得るには、むやみに批判せず、
理解できるところは理解して、相手を認めてあげることなのだそうです。
そうすれば、いつか「別姓を望む人たち」に対して、
心を開くようになり、賛成してくれるはず、と考えていました。

また、こうしたことが、自分たちと異なる考えを
受け入れられる、「寛容」な態度だとしていました。
この考えかたは、「多様な価値観の尊重」という、
市民団体のメンバーの多くが、共有しているお題目と、
擦りあわされるので、彼女たちのあたまの中に、
ひじょうに入って行きやすいものと、なったようです。


このような、自民党支持や、反対派擁護は、
効果的と思えず、どうしても賛同できなくて、
去っていった人たちも、一部にいたことはいました。
しかし、ほかの多くのメンバーたちは、
はじめは反対していたものの、しだいに、
代表世話人のペースに、巻き込まれていくことになります。

自分たちの活動は、選択別姓実現のための、
いちばん早くて確実な方法であると、思い込むようになり、
また、自分たちは、みずからの手で、政治を変えていこうとしていて、
政治意識が高いのだという自負を、強めていくのでした。

「民法改正運動の展開」にもどる
トップにもどる

inserted by FC2 system