民法改正運動の展開
家裁認可制法案(2)



家庭裁判所の認可を受ける、というのは、
どのような交渉が必要で、どのくらいの時間がかかるのかが
気になるところだと思います。
(たいていのかたは、裁判所とは縁がないでしょうし、
わたしも、かかわったことがないので、ぜんぜん知らないですし...)

ほかの件からの想像ですが、裁判所の混み具合によるけれど、
だいたい1ヶ月待てば、日程を入れてくれるようです。
そして、家裁へ1回行くと裁判官との面接(審尋)があります。
認められるときは、その場で言いわたしてくれます。
つまり、1ヶ月経って、1回だけ家裁へ足を運ぶと、
認可が得られるというのが、スムーズにいった場合となりそうです。

どのくらいの確率で認められるかは、
これからのことなので、まったく見当がつきません。


家裁認可制法案が発表されると、その奇抜さのせいもあって、
別姓推進派のあいだで、さまざまな反応を呼び起こし、
また、大きな議論(けんけんがくがくの大騒動?)と、なりました。
民法改正実現にむけての、議論や活動も、
もしかすると、例外制のときより、活発だったかもしれないです。

家裁の認可が、どのくらい降りやすいかについて、
不安がる人もいたし、楽観する人もいました。
3つの条件の是非についても、取りざたされました。
苗字を変えたくないのが、夫のときと、妻のときとで、
認められやすさに、差があったりするのか、なんてことも話題になりました。
どうやったら、家裁の認可を受けやすくなるか、という
テクニックじみたことが、話されたりもしました。

これらの議論は、きわめて立ち入っているし、
おおかたの読者にとって、たいくつなだけだと思います。
たいして重要でもないので、こまかいことは省略することにします。


重要なのは、結婚の際に、家庭裁判所が介在すること自体が、
容認してよいものなのか、ということでしょう。
これについては、推進派、賛成派のあいだで、賛否両論、
ふたつに分かれたのでした。

朝日新聞に「私の視点」という、一般読者の投稿欄があります。
(このころには、一部推進派のあいだでは、
すっかり評判が悪くなった、朝日新聞ですが。)
02年11月20日と、12月22日の、このコーナーに、
反対と賛成の代表的な意見が載ったので、
これを参考にしながら、お話したいと思います。


さきに載った(11月20日)のは、反対意見のほうでした。
反対のいちばん大きい理由として、家裁の関与は、
憲法24条の、婚姻は両性の合意にのみ基づく、
ということに反している、というものです。
家裁認可制法案には、このような違憲性があるのはあきらかです。
これには、もはや弁解しようがないと、わたしも思います。

また、「職業上の不利益」が、家裁に認められる
範囲についても批判があります。
運用実態が、まだわからないので、なんとも言えないのですが、
専業主婦をなさっているかたのように、
改姓による不利益が少ないと見なされていると、
家裁の認可は、降りにくいと考えるのは、自然なことだと思います。

職業によって、こうした扱いに差が出るのは、
あきらかに不公平なことと言えるでしょう。
どんなお仕事をしていようと、自分の名前を
大切にしたい気持ちに、変わりはないはずですから。
投稿者は、さらに「新たな職業差別を生み出す」とも、主張しています。
(このほか、祖先の祭祀についての議論もあるけれど、ここでは割愛。)


つづいて、賛成意見(12月22日)のほうですが、
家裁案は、反対派から譲歩を引き出すための策であり、
現状では、やむを得ないものだとしています。
家裁の認可が降りる人がかぎられる不公平や、
違憲性については、ごく一部でも認められるなら、
まったく認められないよりずっとよい、としています。

こうした意見を、譲歩のしすぎだとするのは、
いささか酷なものがあると、わたしは思います。
苗字が変わることの苦痛は、本人には、ひどく堪えがたいものです。
いつまでも別姓が実現せず、何年も待たされている、という現実もあります。
たとえ、一部の人でも、これで救われるならと、
考えるかたが出てきても、無理もないことだと思います。

また家裁案は、あくまで中間段階であり、
将来の公平な、選択制の実現に向けての、第一歩だともしています。
また、認められる理由に、「その他」があるので、
これによって、不公平がいくぶん解消されうると、
投稿者は、運用実態について、楽観的に見ているようです。


このほか、この家裁認可制法案には、
すでに婚姻しているカップルは、別姓への変更ができない、という
きわだった特徴があります。(例によって、反対派対策ですが。)

法律の施行前に、婚姻届けを出した人たちにかぎり、
特定の期間だけ、別姓への変更を受け付ける、という、
経過措置があるのが、こうした法律の通常です。
(不本意だけど婚姻届けを出した、というケースがあるので。)
しかし、法律改正後に結婚したカップルだけ、
変更ができないと解釈すると、例外制法案のときとおなじなので、
これは、「経過措置はない」ということだと、考えられそうです。

経過措置がなければ、すでに結婚しているカップルが、
別姓へ変更するためには、いったん離婚届けを出して、
もういちど婚姻届けを出すという、
ペーパー離再婚によることになるでしょう。


なんにしても、経過措置がないのは異例なことでしょう。
それで、すでに結婚している人たちを切り捨てている、
一度離婚することを強制するのか、などなど、
ここにも批判が集まったのでした。
(いまひとつはっきりしないので、そんなことはなくて、
経過措置くらいはあると、楽観するかたもいますが。)


参考文献、資料
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