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民法改正運動の展開 - 2002年前半(1)
例外制法案
撤退の序曲

この議論のログ

例外制法案、打ち出される
2001年の世論調査で、「民法改正へ追い風」と思われたのですが、
反対派議員たちの抵抗は、やはり強固で、てこでも動かなかったのでした。
法改正実現にむけて、いちおうの進展はあったようですが、
法務省や自民党推進派グループ、そしてそれを支援した
市民団体の人たちの思惑は、はずれたようです。

2002年に入ると、森山法相をはじめ、自民党の推進派グループは、
反対派たちの抵抗を配慮するために、「例外制」法案を出してきました。
別姓があくまで例外であることを明確にするため、 結婚後に別姓から同姓へ変更することを認める。 逆に、結婚後に同姓から別姓に変更することは認めない方向だ。
(02年1月10日、読売新聞)
この法案では、はじめに、婚姻届けを出すときは、 同姓、別姓のどちらと選ぶにしても、とくに制限はないです。 さきに同姓を選んでいるとき、あとからの変更を受け付けない、 というところに、差が出てくることになります。 どうしても同姓から別姓への変更を、あとからしたいなら、 ペーパー離再婚をすることになるでしょう。 例外制法案は、別姓夫婦を特別なものとみなし、 同姓より1ランク下げることにしたとも言えます。 別姓の法律婚を認めると、同姓の価値がなくなるとかいう (情けないお話だけど...)反対派たちの言いぶんに、 配慮したとも、言えるかもしれないです。 本来なら、同姓だろうと別姓だろうと、そんなことにかかわりなく、 法律はいかなる夫婦も、公平に扱ってしかるべきです。 例外制法案は、憲法14条の「法のもとの平等」と、 24条の「婚姻の自由」に、反しているとも言えるでしょう。 また、読売新聞の記事を見ると、選択制の場合、 「別姓が急増するとの受け止め方が自民党の反対派議員に強い」とあります。 実際にどのくらいかはともかく、別姓を選択する人が増えるのなら、 それだけ多数ということですから、とうぜん法改正は認められることのはずです。 「急増する」と言いながら、少数だから認められる必要がないというのは、 まったくの矛盾としか言いようがありません。

市民団体の反応
インターネットの市民団体の人たちの集まる掲示板でも、
「例外制法案」について、議論がありました。
そこで、批判や反対の意見は、いちおう出て来ました。

なんと言っても、「例外扱い」が、気持ち悪くて受け入れがたいことです。
より実質的なこととしては、別姓を選択したい場合の、
敷き居になりかねない、というのがあります。
たとえば、お相手を説得するとき、あえて例外を選ぶことになって、
かえって難しくなるのでは、という心配がありました。

それでも、あとで出てくる、「家裁認可制」と違って、
別姓を選択することには、実質的なハードルがないと言えます。
また、例外制でも認められれば、一定の前進ではあることと、
これで反対派たちも、受け入れてくれるというのなら、
それでもいいと考えて、批判的論調は落ち着いた感じです。

また、法的に不公平に扱かわれることで、別姓に対する偏見を残すし、
本質的な隔離扱いにつながることもある、という懸念もありました。
しかし、これも、大多数の世間一般の人たちは、
「ああ、別姓も選択できるようになったの?」くらいの認識しかなく、
法律上の位置付けなんて、立ち入ったことまで知らないだろうから、
深刻な問題は残らないだろうあたりで、おさまったようです。


法案の是非とはべつに、例外制などという、あやしげな法案を出すので、
「自民等は徒党を組んで、自分達の今の現状を保持したいがために、
反対をしているように思えます」というかたがいました。
(01月 10日 12時 55分)

これは例によって、代表世話人のかたが、横やりを入れましたよ。
選択別姓実現には、自民党にお願いするしかないというので、
自民党は信用できないと、みんなに思わせないためにほかならないですよ。
自民党にもいろいろな議員さんがいます。 国会や自分のHP上で賛成の立場で発言して下さっている方も少なくないですし、 メールや手紙に丁寧なお返事を下さる方もいらっしゃいます。 折角、インターネットというツールがあるのですから、 議員に直接メールを出すなどして、 もっと自分の目で確かめて見てはいかがでしょうか?
(01月 10日 13時 51分)

「夫婦別姓雑感」
「夫婦別姓雑感(02年4月20日)」は、やはりというか、
例外制法案に対する反対意見を、声高だかに述べています。
(婚外子差別撤廃の切り捨てに、反対したことが原因で、
市民団体から排除されたかたが、書いたものですよ。)
http://www31.ocn.ne.jp/~eighsaqu/zakkan.htm

反対の理由は、もちろん、憲法24条の「婚姻の自由」と、
14条の「法のもとの平等」への違反です。
選択別姓の導入は、これらの条文を根拠にしてきたのだから、
それに反する法案を作るのは、大いなる矛盾であるとしています。
さらには、それは「差別を解消するために、また新たな差別を作り出す」
ことでもあるという批判もしています。

憲法との抵触はあると言えるでしょうが、論調がとても激しく、
「思想なし、利益のみ」「人権意識の低下」とまで糾弾される、
おおげさなことなのかと考えるかたも、多いのではないかと思います。
(家裁認可案でしたら、このくらいの批判も妥当かもしれないですが。)

「この問題は法律問題としては大して難しいことではないのに」
「賛成派からの批判論反対論が顕在化しないのはなぜか」と、疑問を呈し、
差別的扱いが残るので、「問題はより複雑化し地下に潜」るとあります。
これは、例外制法案には、実質的な不利があまりないので、
さきにお話したようないきさつで、批判的意見が高まらなかったのでしょう。
そして、その年の通常国会で、法案を成立させることに、
市民活動家たちの関心は、移っていったからだと思われます。


「夫婦別姓雑感」は、全体を通して、法律理論に重点が置かれています。
そのせいなのか、改姓が強いられる苦痛や切実さに比べたら、
同姓から別姓への変更が効かないくらいの法律の不備は、
たいしたことない、といったことは、あまり考えていない感じです。
また、はじめから、完璧な法案を作るべきと考えているのか、
できの悪い法案は、あとからいくらでも作り直せばいい、
という考えかたにも、とぼしいような様子です。

法学的整合に対する、かかる潔癖さに対して、
どこか、法律のために人間がいる、といったような
印象を受けるかたも、いらっしゃるかもしれないです。
また、こうした姿勢は、インターネットの市民団体のように、
自分たちは、実務的、現実的という自負の強い人たちが、
「専門家とは、当事者意識がなく、理屈ばっかりで現実知らずだ」という、
イメージを流すのに、役立ってしまうかもしれないです。

撤退の序曲(わたしの見解)
ところでこの例外制、使いかたによっては、
別姓にしたい貴女に、好都合かもしれないです。
というのは、お相手の彼氏が別姓結婚をためらっているとき、
「さきに同姓を選んじゃったら変えられないけど、
別姓なら具合が悪くなったら、あとからでも変えられるから、
とりあえず別姓にしておきましょう」と言うことができるからだけど。

いったん別姓結婚してしまえば、時間がたつにつれて、
はじめは抵抗があった彼氏もだんだんと慣れてきて、
(あるいは、めんどうに感じてきて?)別姓のままでもいいやと、
なってくれることが、じゅうぶん考えられるでしょう。

お相手の男性が別姓を渋る理由には、
根拠のない抵抗感や不安感によることもあるので、
そんな場合、苗字が違ったところでどうってことないのだと、
既製事実を作ってしまうというのは、結構効果的ですよ。
 
 
それはともかく、わたしはこの例外制法案が
出てきたあたりから、いやな予感がしてきたのでした。
といっても、法のもとの平等、婚姻の自由といった、
憲法の規定に反するとか、別姓に対する偏見が、
固定化するとかいうことでは、ないですよ。
  
わたしが懸念したことは、自民党の反対派議員たちも頑迷すぎて、
なにがあっても妥協することはないのではないか?
このさきどんどん譲歩させられたあげく、
結局認められることはないのではないか、ということです。
この例外制法案に、そうした「撤退の序曲」を、わたしは感じたのでした。

「ペーパー離再婚掲示板」過去ログを見て、
別姓反対派というのが、はじめに反対ありき、
どれだけたくさんの根拠を見せられても、決して考えを改めない
「とんでも」さんだと、すでにわたしは知っていました。
それで自民党の反対派議員たちも、やはりそうなのでは、
という予感が、このあたりからしはじめたのでした。

参考文献、資料
  • 読売新聞 02年1月10日
    • 夫婦別姓「例外」案
      副見出し:法務省 選択制から転換 自民反対に配慮
    • 別姓「例外」案 本質変わらず
    選択制から例外制に、転換がなされたという記事。

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