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民法改正運動の展開 - 2006年
「あとの祭り」〜呼ぶ側の不都合

呼ぶ側の不都合
『週刊新潮』に、「あとの祭り」という、
渡辺淳一氏のコラムがあるのですが、2006年3月30日号は、
「夫婦別姓はなぜ実現しないのか」というタイトルです。
文字どおり、選択別姓が実現しないことを、取り上げています。

どんなお話かというと、通称使用しているかたのお仕事上の名前と、
戸籍の名前の両方が覚えられなくて困る、ということです。
渡辺淳一氏が、ふだんお世話になっている、女性の編集者のかたにも、
お仕事のときは旧姓を使っているかたが、たくさんいるのですが、
そのほとんどの戸籍の苗字までは、覚えていないのでした。


旧姓を使っている編集者のSさんと、パリに仕事に行ったときでした。
ホテルにチェックインしてから、きゅうに連絡したいことができて、
フロントに電話をして、Sさんに取次いでもらおうとしたのでした。
ところが、ホテルからの返事は、「そんな人は泊まっていない」です。

パスポートには、戸籍の苗字が書かれているので、
フロントにはそちらで登録されているが、
自分はふだん仕事で呼んでいる、旧姓を告げたから、
わからなかったのだと、渡辺氏は気がつきました。
ところが、Sさんの戸籍の苗字を思い出そうとするのですが、
いつも使っていないので、どうしても思い出せないのでした。

やむをえず、「日本人の女性で、東京に住んでいて、
いましがたチェックインした人だ」など、いくつか特徴を挙げたら、
どうにか、フロントにもわかってもらえた、とのことでした。
選択別姓が認められれば、パスポートにも旧姓が記載できるので、
こんなことにはならないのに、認められないので、
おもわずこんな不便をした、ということになります。


このお話は、苗字を変えた本人ではなく、呼ぶ側にとっての不都合です。
夫婦別姓の必要性というと、改姓した本人にとっての不都合が
語られるのが相場ですから、そうした中にあって、
めずらしい視点に立っていると言えるでしょう。

名前は、ほかの人から認識されるためにあるので、
本当ならめずらしくなくて、もっと議論されることだろうと思います。
ところが、もともと、他人による改姓の強制への反対が、
モチベーションにあるところへ、民法改正運動のスローガンが、
「多様なカチカンの尊重」になったので、
「他人さまの都合」が、主張されなくなったのでしょう。

「しがらみ」なき自民党批判?
コラムの後半は、一般的なトピックですが、くわしいですよ。
はじめに、法案が選択制で、改姓したい人の選択をさまたげないので、
反対するモチベーションがないことが、しめされています。

ついで、諸外国の例を具体的に示していて、ほとんどの国で、
別姓の選択が認められていて、夫婦同姓が強制される、
苗字の選択の狭い国は日本くらいだ、ということが述べられています。
それにも関わらず、法制審議会の答申から、
10年もなんら進展がなく、たなざらしであることが書かれています。

「要するに、やる気がないのだが、これはなぜなのか」とあって、
そのあと「頭の古い自民党」という節が続いています。
ここで最大の原因は、与党自民党にあることが、述べられています。


この反対論批判の節、物足りないところが、なきにしもあらずです。
ここでは、夫婦別姓のせいで、離婚や浮気が増えるという、
おさだまりの虚構の反対論について、触れています。
また、高市早苗氏の言う、別姓を認めると「子どもの苗字が
何度も変わる可能性があるから」という理由を槍玉にあげています。

別姓で離婚や浮気が増えることについては、
苗字の変わる女性だけが問題になり、苗字の変わらない男性は、
いまでも離婚や浮気ができることを、暗に言っていて、
男女間不平等があることを、触れてほしかったです。

また、別姓のせいではなく、現行の夫婦同姓の強制のせいで、
離婚や再婚を繰り返すと、子どもの苗字が変わることになるのでした。
それで、子どもの改姓をさけるために、婚子続称をしたり、
非改姓結婚を望むかたも、たくさんいらっしゃります。
高市早苗氏の主張には、このあたりを突いてほしかったと思います。


反対論批判については、歯切れがよくないものは感じますが、
現実に法案の成立を阻止しているのが、自民党であることを、
はっきりと指摘しているのは、とても好感が持てるところです。

インターネットの市民団体は、自民党にお願いして、
選択別姓法案を実現させようとしているせいで、
自民党批判があまりなく、むしろ封じられる傾向さえあります。
渡辺淳一氏は、そうした活動と直接関係がないと思われるので、
「しがらみ」もないので、遠慮なく自民党批判ができる、
ということなのでしょう。

参考文献・資料
  • 週刊新潮 2006年3月30日号 「あとの祭り」
    「夫婦別姓はなぜ実現しないのか」

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