トップページ本館民法改正運動の展開

民法改正運動の展開 - 2002年前半(1)
自民党法務部会の実態
民法改正法案提出阻止の現場

事前審査・承認制度と党議拘束
法案を国会に提案できるのは、議員と内閣(政府)となっています。
議員が法案を提案することを、「発議」と言い
内閣(政府)が提案することを、「提出」と言います。
政府提出の法案作成は、各省庁の官僚がスタッフとして働きます。
また、議員の発議による立法を、とくに「議員立法」ということがあります。


ところで、日本の政府提出のプロセスですが、
これには、与党の「事前審査・承認制度」という、
ほかの国にはない、独特のシステムが設けられているのです。

これは、政府提出による法案を、
国会で審議にかける前に、与党の審査を受けるというものです。
中心となる会議は、「法務部会」であり、
これは、自民党議員なら、だれでも参加できます。
多数決が原則ですが、実際には、全会一致が必要とされるようです。
この事前審査によって、与党の意見はほとんどすべて
取り入れられることになります。

こうしてできた法案は、「党議拘束」がかけられるのが通常です。
つまり、国会では形式的に審議がなされるだけで、
自民党議員すべてが、賛成多数で確実に可決する
(あるいは、反対多数で確実に否決される)ことになります。

与党の事前審査・承認制度と、党議拘束の組み合わせにより、
自民党の内部会議だけで、法案が決められてしまい、
それが与党の賛成多数で、ほとんど儀式的な審議だけで可決する、
というシステムが、できあがっているわけです。
事前審査は、法律で定められた手続きではないですが、
その拘束力はきわめて強く、ほかの議員内閣制を
採っている国には見られない、異例なものとなっています。


つぎのウェブログに、法務部会の風景が、簡単に述べられています。
朝の8時とずいぶん早い開始で、
朝ご飯とおぼしき、お弁当が持ち込まれたりもするようです。
出席は義務付けられてはなく、欠席する議員も
すくなからずいるようです。
http://fb-hint.tea-nifty.com/blog/2005/03/post_5.html

上述の「全会一致」は、出席した議員の
中だけでの全員、ということかもしれないです。
当該法案に興味のある議員だけが、出てくるのでしょう。

民法改正の政府提出も、とうぜん事前審査にかけられるのですが、
その中心である、自民党の法務部会で、どんな会議をやっているのか、
2002年に、はじめてその内幕が、マスコミで報道されました。
(くわしい状況は、02年4月11日(スキャナー)と、
02年5月1日の読売新聞の記事に出ています。
これらをご覧いただけたらと思います。)
 

そこでの、別姓反対派議員たちの態度が、
まことに百家争鳴というか、じつにすさまじいのです。
景気が悪いのに、こんなくだらないことで時間をかけるなと、
地元の支持者から言われているからと、会議をやめたがるのとか、
国柄を変える大問題だと大騒ぎしたりとか、そんな調子です。

いやいや、こんなのはまだおだやかなほうです。
「これが議論か?」と言いたくなるような、
ケンカ腰の反対派議員もいるから、いやになってしまいます。
たとえば、賛成派議員の欠席が多いときに、
「みなさん忙しいから...」と、賛成派のひとりが弁明すると、
「じゃあ、反対派はひまだというのか?」などと、
言いがかりをつけてくれたりします。

さらには「(賛成派の)だれが何を言うか、もう顔を見ただけでわかる。」と
一喝して一同をだまらせるとか、もっとひどいのになると
「オレの目の黒いうちは、別姓など絶対に許さない」などと、
ストレートに言ってのけたりとか、むきだしの敵対心を
隠そうともしないのもいるくらいです。
 
反対派に対する譲歩として考え出された、
例外制法案はどうなのかというと、言うまでもなくあっさり却下です。
なんでも、「実質的に選択制と変わらない」のだそうです。


このものすごい実態を知ったとき、
別姓反対派とは、はじめに反対ありきで、
なにがあっても理解することがなく頑迷きわまりないのは、
国会議員といえども例外でないと、わたしは確信したのでした。
やはりというか、これらの反対派議員たちも、
「ペーパー離再婚掲示板」過去ログに出てくる反対派と
同類と思って、まちがいないようです。

なんにしても、選択別姓(民法改正)法案が、いつまでたっても、
国会で審議もされない状況が続いているのは、
このような反対のされかたをして、にぎりつぶされていたからだった(!)、
というのがはっきりわかりました。

例外制法案が出されたあたりから、
わたしは「撤退の序曲」を感じて、このさきいくら譲歩しても、
反対派議員たちは認めないのではと、感じはじめていました。
どうやらこの予感は、当たりそうな気配です。

法務部会は、自民党議員ならだれでも参加できるので、
民法改正実現を阻止したい反対派議員は、絶対に出てくるでしょう。
しかもそこは、全会一致でないと承認されないですから、
なにがなんでも反対と言い続けて、つぶしてしまうのは、
法案提出を阻止する手段としては、とても効果的なわけです。

この事前審査は、「郵政法関連法案」のように、
省略されて、直接国会に提出されたこともありました。
しかし、これも、反対派議員たちは、
「事前審査省略の前例は、選択別姓法案には認めない」と、
とうぜんながら、かたくなに反対するだけです。
自分たちにとって、法案つぶしの絶好の(そしてほとんど唯一の)場所を
飛ばすなど、反対派議員たちが、許すはずもないでしょう。


もうしばらくすると、政府提出がどうしてもできないなら、
党議拘束ははずして、議員立法で選択別姓法案を
提案しようという動きも、賛成派議員の中から顕著になってきます。
「臓器移植法案」とおなじように、個人の良心や信条にかかわるので、
所属政党にこだわらず、各議員がそれぞれの政治スタンスに
もとづいて判断したほうがよい、という理由です。

自民党内には、はっきり賛成を表明している議員は、45人います。
これと公明党、および野党の賛成議員全部をあわせれば、
過半数を超えるでしょうし、国会で審議にかけられたら
成立する可能性がきわめて高いことになります。
(じつは推進派議員たちも、これを期待しているのでしょう...)

このあたりを、じゅうぶん承知しているからでしょう、
反対派議員たちは、「閣法(政府提出)で、党議拘束をはずした前例はない」と、
やはりこれも、絶対に認めようとしないのでした。
かかる反対派議員たちを前にして、賛成派議員の中には、
「この先10年は、国会での審議は無理なのではないか?」
(橋本派の中堅派)というふうに、悲観的な声もあるくらいです。

世論調査を見ても、国会全体での勢力から言っても、
別姓反対派にとっては、もはや背水の陣であり、
議論を自民党の外へ出すわけには、絶対にいかないのだろうと思います。
なにがなんでも、法務部会という、内輪だけの会議を
かならず通して、そこで、自分たちの手で、
法案をにぎりつぶさなくてはと、必死になるのだと思います。

そんな反対派議員たちが、「事前審査・承認」制度と、
「党議拘束」を、最大限に活用するのは、とうぜんのこと言えます。
もはや、どのようなかたちであっても、
法案の審議を許すことはありえないに、ちがいないでしょう。


事前審査・承認制度と、党議拘束は、
自民党が、党内の統一性を保つために、作られたシステムです。
保守系政党の連合体として、はじまったからでしょう、
自由民主党は、党の分裂にかんして、
ことのほか神経質になるところがあります。
いまもって、この事前審査・承認制度と、党議拘束は、
批判にさらされながらも、党の統一を維持するために必要、
という意見が多くなっています。

また、このシステムは、本来、政府提出の法案を、
通しやすくする目的があります。
実際、法制審議会の法案は、ほとんどそのまま通過して、
党議拘束がかけられ、議会で可決するのが、通常となっています。

ところが、民法改正法案、選択別姓法案にかぎっては、
このシステムが悪用され、法制審議会案の
提出妨害に使われている、というのは、まことに皮肉なお話です。
政府提出案を効率よく通すのが、与党の役目という
議院内閣制の意義から考えても、本当ならあってはならない「反逆」を、
反対派議員たちは、続けているとも、言えるでしょう。

参考文献、資料
  • 読売新聞 2002年4月11日
    • スキャナー 迷走、夫婦別姓
  • 読売新聞 2002年5月1日
    • 夫婦別姓法案提出 今国会も見送りへ

「民法改正運動の展開」にもどる
「本館」にもどる
トップにもどる


inserted by FC2 system