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民法改正運動の展開 - 2008年
国連自由権規約審査(1)

自由権規約審査 自由権規約審査(2)

2008年の10月に、ジュネーブの国連ヨーロッパ本部で、
自由権規約委員会による、日本の報告の審査が行なわれました。
15日と16日に審査が行なわれ、最終報告は10月30日に出ています。
この審査を日本が受けるのは、今回で5回目になります。

「自由権規約」は、「国際人権B規約」
(市民的及び政治的権利に関する国際規約)とも言われるものです。
身体の自由と安全、移動の自由、思想・良心の自由、
差別の禁止、法の下の平等などの自由権がふくまれます。

15-16日の審査ののちの、「最終見解」はこちらをご覧ください。
「HUMAN RIGHTS COMMITTEE CONSIDERS REPORT OF JAPAN」
また、30日に出された、「最終報告書」はこちらです。(ワードファイル)
「Concluding observations of the Human Rights Committee」


国際人権B規約は、つぎのように、23条と24条が、
婚姻の平等や、子どもの権利に関することになっています。
これらの規定によって、女性だけに課せられた再婚禁止期間、
婚姻可能な年齢の男女差、婚外子の相続差別、嫡出概念など、
民法改正に関係することで、審査を受けることになります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html


第二十三条
1 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、
社会及び国による保護を受ける権利を有する。
2 婚姻をすることができる年齢の男女が婚姻をし
かつ家族を形成する権利は、認められる。
3 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意なしには成立しない。
4 この規約の締約国は、婚姻中及び婚姻の解消の際に、婚姻に係る
配偶者の権利及び責任の平等を確保するため、適当な措置をとる。
その解消の場合には、児童に対する必要な保護のため、措置がとられる。 

第二十四条
1 すべての児童は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、
国民的若しくは社会的出身、財産又は出生によるいかなる差別もなしに、
未成年者としての地位に必要とされる保護の措置であって家族、
社会及び国による措置について権利を有する。
2 すべての児童は、出生の後直ちに登録され、かつ、氏名を有する。
3 すべての児童は、国籍を取得する権利を有する。 

16日に出た「最終見解」を、はじめに見ていきたいと思います。
婚外子差別に関して、「Report of Japan(日本の報告)」で、
国連人権委員会の見解が、述べられています。
(あとの日本語は、わたしのつたない訳。)

法律婚主義を取っているから、婚外子の相続差別は合理的という
日本側の釈明は、これまでにもずっと言われたことです。
状況はぜんぜん変わっていないので、同じことしか言えないのでしょう。
そのせいで国連の見解も、4回目の報告のときに同じです。
「ずっと前にも言ったでしょう?」と言われたのですが、
4回目は1998年なので、10年前から変化がないことになります。

Concerning children born out of wedlock,the report refers to a provision of Japan's Civil Code which stipulates that the statutory share in succession of a child born out of wedlock shall be one half of that of a child born in wedlock. This is a reasonable provision established with the objective of protecting families comprised of a married husband and wife and their children.
However, as was already stated in the fourth periodic report, it is necessary to undertake a review of the system in accordance with changing social circumstances affecting inheritance.
非嫡出子については、日本の報告書では、
相続額を嫡出子の半分としている、民法の規定を根拠としている。
これは、法律婚主義にもとづいて、結婚している夫婦と
子どもたちからなる家族を保護するためであり、合理的としている。
しかしながら、4回目の報告でも明言しているように、
相続をとりまく社会状況の変化に合わせた、制度の見直しが必要である。
女性だけにある再婚禁止期間と、婚姻可能な年齢の男女差について、 「Response to Questions Sent to Japan in Advance (事前に日本へ送られた質問に対する回答)」で述べられています。 再婚禁止期間も、やはり法改正がぜんぜん進んでいないので、 「こういう質議があった」というだけの、じつにさみしい報告です。 婚姻可能な年齢に関しては、結婚に対する適性を理由にしていますが、 こんなものは、男女差より個人差のほうが大きいと思います。 いまは高校生くらいまでは、男子も女子も、 ライフスタイルに、たいして違いがないので、 精神面での差なんて、ほとんどないのではと思います。 国に適齢期のことをとやかく言われるのも、大きなお世話です。
Concerning discriminatory provisions in the Civil Code, namely the prohibition for women to remarry during six months following divorce in the event that it was necessary to determine the paternity of a child or the difference in the minimum age of marriage for women (16) and men (18), the delegation explained that there had been a report by an advisory committee to the Minister of Justice that proposed the marriageable age to be 18 years of age for both men and women.
Also, the period of prohibition of remarriage post divorce should be shortened to 100 days. However, there were physical and mental differences in the age at which men and women reached the maturity necessary for marriage. The delegation stressed that there was a rationale behind the provisions giving different marriageable age for men and women that reflected these physical and mental differences between men and women.
父性の推定のために、女子にのみ、離婚後半年のあいだ、
再婚が禁止されていることと、婚姻可能な年齢が、
女子が16歳以上、男子が18歳以上となっていて異なることが、
民法における差別的規定としてある。

諮問委員会で、婚姻可能な年齢を、男女とも18歳とするという質議が、
法務大臣に対してなされたことを、日本側は説明している。
また、再婚禁止期間は、100日に短縮されるべきとしている。
しかしながら、結婚適齢期に達する年齢は、男女のあいだで、
肉体的にも精神的にも違いがあるとして、婚姻可能な年齢に
男女差を設ける規定の裏付けとなっていることを、日本側は強調した。

続いて、30日に発表された「最終報告書」ですが、
民法改正に関したところは、法律を改正しろ、差別をなくせです。
「くりかえし勧告する(reiterates)」と言われていますし、
なにもしていないと見られたことは、あきらかでしょうね。
婚外子については、相続差別だけでなく、戸籍を得ることや、
出生届けの受理についても、言及があります。

11. The Committee reiterates its concern about discriminatory provisions in the Civil Code affecting women, such as the prohibition for women to remarry during six months following divorce and the different age of marriage for men and women. (arts. 2 (1), 3, 23 (4) and 26)

The State party should amend the Civil Code, with a view to eliminating the period during which women are prohibited from remarrying following divorce and harmonizing the minimum age of marriage for men and women.
11. 委員会は、女性に関する民法の差別規定について、くりかえし勧告する。
具体的には、女性だけに課されている、6か月間の再婚禁止期間、
および、結婚できる年齢の男女差である。(条項 2(1), 3, 23(4), 26)

貴締結国は、女性の待婚期間の撤廃と、結婚可能な最低年齢を、
男女で一致させるために、民法を改正する必要がある。

28. The Committee reiterates its concern that children born out of wedlock are discriminated against with regard to the acquisition of nationality, inheritance rights and birth registration. (arts. 2 (1), 24 and 26)

The State party should remove any provisions discriminating against children born out of wedlock from its legislation, including Article 3 of the Nationality Law, Article 900 (4) of the Civil Code, as well as Article 49 (1), item 1, of the Family Registration Law prescribing that birth registration forms shall indicate whether or not a child is "legitimate".
28. 委員会は、婚外子に関して、戸籍の取得、
出生届けの受理、相続の際に差別される規定について、
くりかえし勧告する。(条項 2(1), 24, 26)

貴締結国は、婚外子に対する、あらゆる法的規定に
もとづく差別を撤廃する必要がある。
これは国籍法の3条、民法の900条4項、および出生届けの1項目にある、
子どもが「嫡出」かそうでないかを記入する欄を
設けることを定めた、戸籍法49条の1項の規定をふくむ。

民法改正なんて、10年以上ずーっと、なにもなされていないですから、
なにを報告して、なにを言われたのかと思ったのですが、
やはりというか、とてもおそまつなものでした。
ようするに、報告できることが、なにもなかったのでしょう。
それでやむをえず、1998年の前回審査と同じことを繰り返したり、
進捗になっていない進捗を、書くはめになったのだと思います。

自由権規約審査は、通常は4-5年おきに受けるものなので、
10年というのは、かなりあいだが空いたことになります。
いままでずっと、延び延びにしていたけれど、さすがにこれ以上、
審査を受けないわけにはいかなくなったのかもしれないです。

外務省のお役人のかたたちは、どういう気持ちで、
今回の報告書を書いていたのでしょうか?
かかるていたらくは、彼らのせいばかりではないですし、
さぞかし筆が重かったのではないかと、同情さえしてしまいます。

自由権規約審査は、進捗がなくても、「勧告」だけで、
罰則規定はなく、実効的な圧力はかからないです。
せいぜい「日本はそういう国だ」と、国際社会から思われるだけです。
それでも、どこかの国から、外交上不利な扱いを
受ける可能性はありますし、あまりに守らない国があると、
なんらかの実効的措置を、検討しはじめるかもしれないです。


法律が10年ものあいだ、すこしも変わらないのは、
もちろん国会のせいであり、より正確には、政権をずっと握ってきた、
与党自民党のせい(そして選挙で、自民党を政権に
つけ続けて来た有権者)であることは、言うまでもないことです。

自民党の民法改正に対する姿勢は、繰り返しお話したことです。
法律が改正されて、国際社会に対して顔向けをしたいなら、
すくなくとも政権交代が、起きなければならないでしょう。

参考文献、資料

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