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民法改正運動の展開 - 2007年
夫婦別姓法制化の闘論
稲田朋美議員登場

別姓法制化の討論 正しい家族幻想

2007年の年が明けてすぐのことです。
ひさしぶりに、選択別姓の記事が、新聞に載りました。
2007年1月8日の毎日新聞で、東京朝刊です。
賛成の沼崎一郎氏と、反対の稲田朋美氏の意見が、並べられています。
『闘論:夫婦別姓の法制化 沼崎一郎氏/稲田朋美氏』

沼崎一郎氏は、文化人類学者をなさっていて、
ながいあいだ、民法改正運動に関わってきたかたです。
稲田朋美氏は、自民党の議員で、コイズミチルドレンのひとりです。


沼崎一郎氏の主張は、おもに通称使用のことになっています。
とくに、通称使用が認められる人が、公務員や大企業の
正社員にかぎられていて特権的となり、派遣社員、非正規雇用者や、
中小企業の人など、なかなか認められない人とのあいだの
「格差」が大きくなっていることが指摘されています。

ここで連合の行なった、旧姓使用の実態調査が示されています。
1998年の調査で、加盟803団体を対象にしているのですが、
旧姓使用を認めないところが63.6%で、いちばん多い理由が
「法律で認められていないから」だそうです。
旧姓使用ができないと、事実婚にならざるをえないですが、
夫婦間の財産相続ができないことや、子どもの共同親権が
持てないといった、不都合が具体的に挙げられています。

10年近くむかしの調査なので、いまはもっと状況が、
よくなっているのかもしれないです。
それでも、こと家族法に関しての硬直的な思考、
そして、旧姓使用が(法律で禁止されてはいないのですが)、
ことのほか使えない職場が多いことが、うかがえます。

連合というのは、民主党の支持基盤になっている、労働組合の団体です。
旧式の組合という印象で、「おやじ社会」というイメージが、
わたしにはあって、民法改正には賛成はしているけれど、
それほど積極的でないと、思っていたのですが、
思いがけないところで、活躍しているみたいです。


このほか、反対論者にありがちな主張として、
「家族の崩壊」や、「子どもがかわいそう」論に反論しています。
また、小泉政権が作り出した経済較差や、家庭内暴力を挙げて、
こちらの対応がふじゅうぶんであることが、
本当に家族を壊している原因だとしています。

全体の論調としては、差別と権利侵害の解消を重視していて、
世論調査や連合の調査など、いくつかの統計データを引きながら、
事例と事実もとづいた議論をしていらっしゃります。
さらに、最近の傾向を意識もしていて、
選択別姓法案が認められないことも、格差のうちであるとして、
格差解消という視点からの民法改正を主張しています。

これに対し、稲田朋美氏の意見は、「法が理想とする家族像」
なるものが存在して、国民は法律でさだめた
家族観にしたがうべきである、という論調です。
そして、夫婦別姓はこれに反するから認められない、というものです。
まるで、人間が暮らすために法律があるのではなく、
法律のために人間がいると言わんばかりの、高飛車なもの言いです。

自分の生きかたは、自分で決められるという、
社会の基盤を整えるのが、政治や法律の役割であり、
法律が個人のありかたに介入したら、それは越権行為という、
岡田克也氏が、『政権交代』の240-243ページで、
述べている考えとは、まっこうから対立すると言えるでしょう。


また法制審議会は、専門家の集まりだから、民主的ではない、
最後の決定は国民の代表である議員がなすべきだとも、
稲田朋美氏は言っていて、これにはあきれてしまいました。
自民党では、いつも反対派たちが、事前審査を行なう法務部会で、
ヒステリックにわーわー騒いで、国会で審議ができないのでした。
これのどこが、「民主的」だと言うのでしょうか?

そもそも、自民党の政策決定システムでは、
ほとんどの法案は、法制審議会の作った閣法を可決させていて、
実質的に官僚が支配していると批判されて、ひさしいです。
民法改正に限って、こんな「きれいごと」を言うのですから、
じつにつらの皮が厚いと思います。


稲田朋美氏の主張で、とりわけうつろなのが通称使用のことです。
「不便があるなら、通称使用で解決すればよい」と、
ありきたりのことで片付けていて、その「根拠」も、
「自分が問題なかったから、みんな問題ないにちがいない」という、
これまたおさだまりの独りよがりなものとなっています。

通称使用の法制化は、同時に改正する必要のある法案が、
400も出てくるとか、概念矛盾をきたすとか、
技術的に困難なことが、すでに指摘されています。
その前に反対論者たちは、通称使用の法案を提示してもいないです。
稲田氏も、そうした反対派たちのご他聞にもれず、
「ただ言っているだけ」のレベルと思われます。

世論調査をはじめ、数多くの事例を挙げていて、
主張に具体性のある沼沢氏と、まったく対照的となっていますが、
これを聞いて稲田氏は、どう思ったのでしょうか?
この記事は、もともと討論なので、稲田氏の発言がさきにあって、
その反論として、沼沢氏の意見が出たのでしょうか?

稲田朋美氏は、「夫婦別姓で、家族の一体感が損われる」という、
よくありがちな思い込みが、根底にあるようです。
夫婦同姓の強制を、日本の伝統的な家族とも信じているようです。
ようするに、例のごとくの、「正しい家族」幻想の信者なのでしょう。
反ジェンダーフリー論ともむすびついていて、
きょうびのバックラッシュの影響も受けているみたいです。

また、夫婦別姓を例外として認めたら、あれもこれもと、
つぎつぎといろんなものを認めざるをえなくなって、
婚姻制度が崩壊する、などととも言っています。
稲田氏が考えるような、荒唐無稽な事態にならないのは、
すでに選択別姓制度が導入された、諸外国を見ればあきらかでしょう。

将来のことなので、どうなるかわからないのをいいことに、
ありそうもないことを、たくさん並べて、
「可能性が否定できない」と言って、「反証不可能」な主張をするのも、
反対論者のお約束と言ってもいいでしょう。

ほかにも、事実婚の法的扱いについての誤解や、
子の氏名権に対する、言いがかり同然と言えるもの言いなど、
無理解にして不可解なことが、たくさんあります。
くわしくは、つぎのエントリを、ご覧になるとよいでしょう。
http://fb-hint.tea-nifty.com/blog/2007/01/post_10ba.html
http://blogs.dion.ne.jp/pnest/archives/4897903.html


稲田朋美氏の主張は、ぜんぜん説得力がないばかげた意見、
というのが、一般の印象だろうと思います。
あまりにひどいので、弁護士出身なのに、法案を読む能力が
あるかさえ疑われるくらいです。(January 08, 2007 at 04:56 PM)
しかし典型的な反対意見で、じつは自民党の支持基盤である、
宗教系の団体の影響があるのではと、わたしは感じました。
稲田朋美氏は、日本会議の影響を受けているとも言われています。

「とんでもない」と笑い飛ばすだけでなく、
深刻に背景や反論を、考えることではないか、
というご指摘がありますが(January 11, 2007 at 12:50 PM)、
わたしも、これは、警戒するべき意見だと思います。
いままで、稲田朋美氏というのは、どういう人物かよく知らず、
あまり見ていなかったのですが、これを契機に注目するようになりました。

わたしは、ミギとかヒダリの政治思想は、まったくうとく、
いつも、「これはこういう筋ですよ」とか、教えてもらっています。
しかし、家族やジェンダーに関したことだけは、
宗教系の右翼団体のにおいがあれば、それをかぎとることは、
だいぶできるようになったみたいです。

参考文献、資料

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