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民法改正運動の展開 - 2007年
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別姓法制化の闘論 男と女の狂詩曲 北海道新聞
揺れる家族観 揺れる家族観(2) 揺れる家族観(3)

毎日新聞 「男と女の狂詩曲」
世論調査が発表されると、いくつかのメディアで、
選択別姓が、取り上げられることになりました。
前回の調査と比べて、賛成が後退したことに、危機感を覚えたのか、
それとも単に、話題性が出てきたからだけなのか、それはわからないです。

はじめに、これは世論調査の前ですが、
毎日新聞が、続けてふたつの記事を書いています。
「闘論:夫婦別姓の法制化 沼崎一郎氏/稲田朋美氏」
「男と女の狂詩曲:変わる“らしさ”20年/8止 夫婦13年 /岩手」

ひとつめの記事は、選択制推進派の沼崎一郎氏と、
反対派の稲田朋美氏の意見を取り上げての、
法改正の是非についての議論となっています。

沼崎氏は、データを挙げて、通称使用に限界があることを
示すなどしていて、具体性があります。
これに対して、稲田氏は(このかたは、小泉チルドレンの
ひとりですが)、宗教団体の影響もあると見られる、
根拠薄弱な反対論の典型となっています。


ふたつめの記事は、「男と女の狂詩曲」なんてタイトルで、
なんだこれはと、思ってしまいそうです。
これは、事実婚をされているかたを、実際に取材した記事で、
苗字を変えたくない気持ちや、苦労したお話といった体験談など、
ごく一般的な内容となっています。

取材を受けている、盛岡市の司会業のかたは、
ネットでわたしが知っているかたで、ご自身のブログで、
記事のことについて、つぎのように触れています。
http://plaza.rakuten.co.jp/anchoretsu/diary/200701120000/

また、この記事でも、「実質的な別姓の広まりによって、
結果的に民法改正のニーズがそがれてきた面もある。」と、
おしまいのところで述べていて、通称使用がやりやすくなったことが、
かえって民法改正の要求を、沈静化させているのではないか、
という、『AERA』07年2月12日号にもあった指摘が、
すでにこのときになされています。

北海道新聞
続いて、2月16日の北海道新聞で、選択別姓が記事になっています。
生活欄の特集で、2ページにわたって、大きく取り上げられています。
「民法改正 賛否が拮抗」「自分の姓 なぜ選べぬ」

はじめに、これまでの世論調査における、民法改正の賛否の、
(1月の調査のQ11の設問)推移が、グラフでしめされています。
07年1月の世論調査で、賛否が拮抗してしまい、
長勢甚遠法相が「民法改正法案をただちに出す状況ではない」と、
あっさり言ってのけたことも、しかと紹介されています。

 
特集の1ページめは、「家族のきずな幻想」や、
通称使用のことなど、ありきたりな反対論が紹介されています。
これらに対して、「同姓で家族の一体感が保たれるなら、
いまあるような、家族の悲惨な事件は起きないはず」
「通称使用は、どの範囲まで認めるか、戸籍名とはなにかなど、
かえって問題が煩雑になる」など、オーソドックスな反論が示されています。

ほかに、「公務員や大企業の正社員は通称が使いやすく、
非正規社員や、中小企業の社員は使いにくいという、格差も出ている」、
「国家が決めた家族像しか認めない、『家族は国のため』という発想」
「成熟した社会は、さまざまな形態を認める社会であるが、
反対論者は、現実の多様性をあえて見ない」といったこともあります。

この反対論への反論のコメントは、札幌青年会議所の森田真未氏、
「別姓を考える会」の樋口典子氏、道情報大の広瀬玲子氏と、
3人もの専門のかたにインタビューをして、充実感がありますよ。
記事には、通称名と戸籍名のふたつの判子を持った、
北海道情報大学の、広瀬玲子教授の写真も、大きく出ています。

それから、「別姓を考える会」は、ご存知のかたも多いであろう、
インターネットでも、おなじみの市民団体です。
(といっても、わたしが、いつも書いている、
「氏名の会」や「実現協議会」とは、まったく別物なので、
おまちがえのないよう、ご注意してください。)


特集の2ページめは、事実婚と通称使用を、
実際になさっているかたが紹介されています。
ひとりめの事実婚のかたは、室蘭市で検査技師をなさっています。
はじめは、婚姻届けを出していたのですが、
自分の名前をなくした喪失感に、ついにたまりかねて、
ペーパー離婚で事実婚に移行しています。

最後に、「安倍首相や高市早苗さんら夫婦別姓反対の急先鋒が
集まっている、今の内閣では絶対無理だと思いますが」と、
はっきり言っているところが、とても小気味いいと思います。
わたしも、もちろん同じ意見です。

ふたりめの通称使用のかたは、札幌市の大学職員のかた(たぶん事務職)です。
やはり、判子をふたつ持つなど、ある程度の煩雑さはあるようです。
むかし、娘に「どうして、そんな面倒なことをしているの?」と
訊かれたのですが、「これが自分の名前だから」と話すと、
「へえ、そうなんだ」とすぐに納得したのだそうです。

反対派たちは、「子どもがかわいそうだ」と、
なにかにつけて、子どものことを、脅しの材料に使いますが、
それが根拠のとぼしいことだという、ひとつの事例とも言えるでしょう。


ところで、こちらの掲示板で知ったのですが、室蘭市の検査技師のかたは、
じつは、むかしのネットでの、わたしのお知り合いなのです。
(高校時代、新聞記事で「かっこいい」と思ったのが、きっかけなのね...)
ペーパー離婚も、夫氏や周囲の理解を得るまで、
かなり苦労していたことも、ある程度わたしは知っていたりします。
世の中、案外せまいものです。

揺れる家族観(1)
さらに、3月20日-21日の朝日新聞に、2日がかりで、
『揺れる家族観』という、特集がありました。
これも、1月に発表された、世論調査を受けてのもので、
日本人の家族観は、なにが変わって、なにが変わっていないのかを、
いくつかの事例を見ていきながら、探るというものです。

はじめに、3月20日掲載の「上」のほうですが、
メインテーマは、たぶん、家族の一体感と苗字の関係で、
同姓の家族と、別姓の家族が、それぞれ1組みずつ紹介されています。
家族全員が同じ苗字であることが、一体感に役立つというケースと、
関係ないケースという、対照的なサンプルを取り上げたのでしょう。

 
はじめの同姓のほうですが、これがなかなかすごいのです。
夫が20代、妻が40代で、歳が20くらい離れていて、
夫の両親の猛反対を押し切って、結婚に踏み切ったそうです。
妻には、中学生の娘がいて、結婚してから、いまの夫とのあいだに、
赤ちゃんができて、4人家族になっています。

はじめは、夫の苗字で同姓にしていたのですが、
夫の親が、夫を連れ戻そうと、別れることを執拗に迫るし、
中学生の娘も、夫の家族と同じ苗字を嫌がり出したので、
夫の家族との決別のために、こんどは妻の姓で届けを出したそうです。

この妻さんは、家族は同じ苗字ということに、こだわるかたで
「家族を壊そうとする圧力から守ってくれる」
「同じ苗字を名乗ることで、私たちはチームになれた」のだそうです。
わたしが見ると、苗字原理主義っぽいものを感じるのですが、
むしろ、このような強引な結婚だったがゆえに、
なにか統一性を感じられるものに、こだわりがあり、
それが苗字だった、ということなのかもしれないです。


もうひと組の別姓のかたは、自分の名前をなくしたくないと、
一般的なモチベーションで、届けを出さないで事実婚というケースです。
夫婦兄妹で苗字が異なるのですが、4つ年上の夫と、
子どもがふたりいらして、ごく平凡な家族構成です。
両親からの反対もなく、保育園のかたからもすぐに理解され、
苗字が異なることで、とくに困った経験はないそうです。

日記には、家族の写真や、家族旅行のチケットが、
埋め込まれていて、やはりいたって平凡な家族という感じです。
「『同じ姓だから家族』と安心しきってしまうより、
『家族をする努力』が大事だと思う」と、おっしゃっていて、
苗字はまったくの形式であり、内実とは関係ないことを示しています。

取材されたかたは、静岡県浜松市の渡辺真紀さんと、
お名前が紹介されていますが、以下のサイトを作っているかたです。
「Mi piace(み ぴあーちぇ)」

サイトには、夫婦別姓のコンテンツもありまして「らいてうML」というメーリングリストを、運営なさっています。
ウェブの上だけとはいえ、知っているかたが取材されていて、
ちょっとびっくりです。(世の中、せまいものです。)

揺れる家族観(2)
『揺れる家族観』の、3月21日掲載の「下」は、
「『跡取り結婚』の条件は?」という見出しがついています。
こちらのメインテーマは、「結婚で跡を継ぐ」ことらしく、
地方と都市部とで例を比較紹介して、それぞれの意識を探っています。

地方のケースとして、山形県の余目(あまるめ)商工会が開いている、
「嫁さん探しパーティ」が、紹介されています。
これは、後継者育成と少子化対策として、町の予算や、
県の補助も出るようになり、事業として成果を納めています。
(それくらい、結婚難が切迫している、ということでしょうか?)

近年は、地方でも大型店の進出で、小売業が不振となっていて、
こうした場合ありそうな、「家業を手伝う嫁を探している」でなく、
経営不振のため、結婚しても、妻にそのまま仕事を続けて、
給料を入れてもらう、「稼ぎ手」を期待しているくらいです。
男性にとって、自営業の跡取りであることが、結婚の壁のようで、
パーティでも、跡取りとかにはこだわってなくて、
とにかく結婚相手を見つけたい、という感じです。

また、娘しかいない家庭のケースも同じようで、
家業の廃業もやむなしという雰囲気があって、跡継ぎの婿以前に、
結婚相手を見つけたい、という状況になっているようです。
(この商工会のパーティのお話は、苗字のことはぜんぜん関係ない。)


都市部のケースとして、「横浜市の折田明子さん(31)は99年、
『ふつうに事実婚』というタイトルのホームページを開設した」と、
紹介されていますが、これは言うまでもなく、こちらのサイトです。
(またまた、わたしが、ウェブでよく知っているかたが、
取材されています。 世の中狭いものです。(笑))
http://www.h6.dion.ne.jp/~pnest/
http://blogs.dion.ne.jp/pnest/

「開設当初の掲示板には、事実婚を選んだ価値観などを
声高に主張する書き込みが目立った。 最近は、住民票の記載や
生命保険の受け取りなどの相談が増えてきた」「事実婚が浸透して、
自分の生きかたを説明する必要がなくなったのだろう」とあります。
わたしが、はじめて見たときは、すでに相談のための掲示板、
という感じだったので、あまりぴんと来ないのだけれど、
そういう変化は、たしかにありそうに思います。

また、「『名前を変えたくないから』といえば事実婚を説明できたが、
最近は、『通称使用できるのになぜわざわざ事実婚なの』と
聞かれることが多くなった」ともコメントされています。
世論調査では、事実婚や通称使用に寛大になったのに、
「法改正の必要はない」が増えたことを、裏書きする感じです。


それで、「跡取り」は、どう関係あるのかというと、
「『事実婚をさせてもらっている』という引け目から、
『男の子を産んで相手の姓にしなきゃ』とプレッシャーも感じる」と、
おっしゃっていて、ようするに苗字の継承です。
別姓や事実婚について、両親の理解を得るまでに、かなり苦労があって、
「双方の親とも、別姓を受け入れるまでには、多くのことを考えたでしょう。
もう一度ストレスをかけるのは申し訳ない」とあります。

記事が狙っているように(?)、これが都市部で、
一般的な感覚なのかは、わたしには、わからないです。
でも、夫婦で苗字が異なると、このようなことを考える人も、
それなりにいるのかな、という気はしますが。

揺れる家族観(3)
朝日新聞の「揺れる家族像」ですが、全体的なこととして、
「上」「下」とも、サンプルを紹介するだけで、
記者自身の意見は、ほとんど入れないものとなっています。

そのせいか、「下」のおしまいで、「変わる意識と変わらない意識......。
時代が描く家族像は、どこへ向かおうとしているのだろうか。」と、
結んでいるのですが、「それで、なにが言いたかったんだ?」という、
ものたりない印象が、わたしは、残ってしまっったのでした。
例を並べるだけでなく、もうすこし、記者の見解を述べても、
よかったのでは、という気もします。

 
また、「上」「下」のともに、別姓夫婦のかたはいたって平凡で、
こうした特集でもなければ、新聞記事にならないという感じです。
(このあたり、わたしが、別姓や事実婚を、見慣れているので、
こういう印象を受けるのも、あるのかもしれないですが)
それで、差し支えないからと思いますが、記事で名前も明かされています。

むしろ、「上」で出てきた、同姓の家族のかたや、
「嫁探しパーティ」に、町や県の予算がついていることが、
(広い世の中探せば、それなりにありそうだ、くらいには思いますが)
記事になりそうな、エキセントリックさがあると思います。

世間的な偏見を言えば、同姓のほうが「ふつう」で、
別姓のほうが「変わっている」だと思います。
しかし、この事例を見るかぎり、まったく逆だろうと思います。
記事を書いたかたも、そういう構成にするつもりで、
取材する相手を選んだのも、あるのかもしれないですが。


さらに、内容への関連づけ、ということだと思いますが、
「上」は、世論調査Q3〔回答票3〕の、
「名字(姓)とは、どういうものだと思いますか」
という設問の結果が、男女別にして紹介されています。
もとの調査は、「他の人と区別して自分を表す名称の一部」
「先祖から受け継がれてきた名称」「夫婦を中心にした家族の名称」と
3つ選択肢があって、複数の回答もできるようになっています。

「先祖から」が、男女とも圧倒的に多いのですが、
男性が50.6%に対し、女性は40.6%と、女性が少なめになっています。
また、「夫婦の名称」は、男性が14.0%ですが、女性が19.0%で、
こちらは男性のほうが、少なくなっています。
これはやはり、女性は結婚で改姓することが多いので、
苗字を受け継ぐという感覚が弱まり、夫婦の名称を、
意識することが多くなる、ということでしょうか?

それから、「下」では、世論調査Q5〔回答票7〕
「実家の名字(姓)を残すために、婚姻をするのが
難しくなることがあるか」が、という設問について、
政令市と町村とにわけた回答を、紹介しています。
「ない」は、政令市で52.0%、町村で57.0%で、
「ある」は、政令市で44.6%、町村で40.4%で、
「都市部より町村部のほうが(「ある」が)少なかった)」と記事では、
結論していますが、10%程度の違いであり、誤差範囲のような気もします。

SQ〔回答票8〕についても、「実家の名前を残すために、
婚姻を難しくしないほうがいい」は、「町村部が上回った」としています。
しかし、都市部で62.0%、町村部で65.3%ですから、これもたいしたことなく、
地方と都市部とで、意識に大差はなさそうな感じです。
家名を残したい人は、農村でも住民全体からみれば限られているのか、
それとも都市部でも、案外たくさん家名を残したい人がいる、
ということなのか、それはわからないですが。

参考文献、資料
  • 北海道新聞 2007年2月16日
    「民法改正 賛否が拮抗」「自分の姓 なぜ選べぬ」
  • 朝日新聞
    • 2007年3月20日 揺れる家族観(上)
      「同じユニホーム」を選ぶ 「夫婦の姓」など巡る世論調査から
      中見出し1:離婚し「妻の姓」で再婚 夫一族とは決別
      中見出し2:「夫婦の名」の意識増加 親子も別姓派
      中見出し3:「家族をする努力が大事」 一体感への影響
    • (→) 2007年3月21日 揺れる家族観(下)
      「跡取り結婚」の条件は?
      中見出し1:地方 商売不振で稼ぎ手期待
      中見出し2:都市部 事実婚も「ふつう」に/でも引け目なお

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