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民法改正運動の展開 - 2004年
2004年の法務部会(1)
マニアだけで議論? 対案は心の中に?

高市早苗、太田誠一といった、急先鋒格をはじめ、
反対派議員の多くが、2003年の衆院選で落選したので、
反対派の勢力が、自民党内で弱体化したと見たのでしょう。
推進派の議連「例外的に実現させる会」は、今度の国会こそ、
選択別姓法案を提出しようと、またまた活気ついてきたのでした。

ここで提出しようという法案は、もちろん家裁認可制法案です。
夫婦別姓を選ぶときは、家庭裁判所の認可が必要で、
「祖先の祭祀」「職業上の理由」「その他」の3つに限られます。
子どもの苗字は父母のどちらかに統一させられ、
さきに同姓を選んでいると、あとから別姓への転換はできないです。


いままで反対派議員たちに、さんざんやられたこともあって、
今度は、推進派議員たちは、だいぶ戦略を練ったようです。
それは、滝実法務部会長に、一任させることに同意させる、
というもので、そうすれば、党の了承も得られて、
国会へ法案提出だけでもできると、考えたのでした。
法務部会に先立って、9日ごろから、それぞれが所属している
派閥の議員を相手に、説得をはじめたのでした。

ところで、滝法務部会長は、選択別姓の推進派です。
このような人物に判断を任せたら、法案提出が必至になることが
わからないような、反対派議員たちであるはずもないのでした。
かかる動きを察知した彼らは、さっそく反対意見を猛烈に吹き出させ、
事前の「根回し」の段階で、早くも難航をきわめてしまいます。

推進派議員たちは、官邸の後押しにも期待したのですが、
こちらもあまり乗り気ではなかったようです。
福田康夫官房長官は、選択別姓の導入に理解はありましたが、
「国民理解を得る努力が必要」などと、会見のとき述べています。
(理解を得る相手は、国民ではなく党内の反対派だと思いますが。)
反対派の激しい抵抗を押してまで、選択別姓法案のために、
なにかしようという気は、まったくないようです。

3月11日の朝、法務部会が開かれました。
そしてそれは、理由も理屈も受け付けない反対派議員が、
ヒステリックなおたけびを上げて反対するという、
いままでとまったく同じパターンで、
法案提出がひねりつぶされたことは、言うまでもないでしょう。

「例外的に実現させる会」の会長の笹川尭議員は、
「何回やっても議論は平行線だ。事実婚で非嫡出子として
産まれてくる少数の人たちを助けられるのは、政治家しかいない」と
切り出したのですが、そんなことに耳を傾ける、
反対派議員であるはずもないです。

反対派議員たちの「おたけび」は、3月12日の各社の新聞をはじめ、
つぎのサイトが、様子をいくらか伝えています。
これをご覧のかたも、鑑賞なさるとよいでしょう。
「2004年 自民党法務部会」
http://fb-hint.hp.infoseek.co.jp/comment04.htm
「Vol.105 非力 2004.3.17(水)」
http://www.sasaki-law.com/memberof/general71.htm#5


やれ、「祖先の祭祀の主宰」の意味が不明だ (相続に関し、民法897条に規定済みの文言である)、 「その他の理由」があるから結局何でも認められる (まさか。そんなことは法律のイロハである)、 「それで子どもが産めないというのだったら仕様がないじゃないか」 (少子化対策が喫緊の課題である厚労族の発言である!)、 「社民党の主張に自民党が乗ってどうする」 (社民党は完全な選択的別姓かつ嫡出子・非嫡出子の平等を主張している)、 「高市さんが出した通称法案でいいじゃないか」 (そんな法案は出ていない。法案化が極めて困難なうえ、 2つの姓を公に認めるのは法的安定性を非常に害するのだ)、等々。 総選挙後で新人が多い、まもなく参院選がある、 終わってからゆっくりやってくれ……だが、この議論は何年も続いている。 その度に、臨時国会ではダメだから通常国会でやってくれ云々、 先延ばしにされ続けられてきたのだ。 だが現実に、自分たちの結婚が法律婚として認められ、 晴れて子どもを嫡出子として産めることを ひたすら待っているカップルは多い。 政治は弱い者のためにある。 それを論理の欠如した暴論で阻止して、何のための国民の代表者か。 某女性議員など「いつまでも議論してりゃいいのよ」と 言って出ていったそうである。

反対派の「おたけび」のひとつで、なんと言っても強烈なのが、
「国家解体運動の一環だ。一部マニアだけで議論してほしい」です。
これを言ったのは、大前繁雄氏のようです。
「北朝鮮の拉致問題に取り組んた」と強調して、
兵庫7区から出馬、社民党党首の土井たか子氏を破って、
2003年の衆議院選で、初当選した議員ですよ。

なんでも、選択別姓は、「国家解体運動」だそうですよ。
反対論者に典型的な、「家庭崩壊」を通りこして、
とうとうここまで来たか、という感じです。
「マニア」などとも言っていますが、いったいだれのことなのでしょう?
わたしなんて、頑迷きわまりなく、ヒステリックな反対をする、
大前氏のようなかたのことかと思ってしまいますが。

『Voice』という雑誌の2004年3月号に、「国家解体阻止宣言」
という記事があって、「一連の『家族つぶし政策』を見直せ」と称して、
「夫婦別姓の阻止」というのもあったのでした。
つぎのページによると、靖国神社の近くでお花見をしているかた相手に
配られたビラにも、コピーされていたそうですが、
大前繁雄議員は、この記事の影響を受けた気配です。
http://fb-hint.hp.infoseek.co.jp/comment04.htm


反対論者たちが、あまりにヒステリックなので、
「そこまで反対というなら対案を示してほしい」という意見が、
ついに推進派議員の中から出たのでした。
そうすると、「対案はボクの心の中にある」などという発言が、
反対派議員の中から飛び出したりもしています。
(確証はないですが、保坂三蔵氏の発言と言われている。)
http://www.cafeglobe.com/news/politics/po20040319.html

ようするに、対案なんてどこにもない、ということなのでしょう。
高市早苗の通称使用案は、どうなってしまったのでしょう?
さきの佐々木知子氏のページを見ると、
「そんな法案は出ていない」と、書いてあります。
やはり、かねてから、催促されていたいもかかわらず、
高市早苗は法案を書かなかったのでしょうか?

いずれにしても、反対論者たちは、「通称使用でじゅうぶんだ」と
いつも言っている(この法務部会でもそう言う反対派がいた)けれど、
「ただ言っているだけ」で、本気で対案を考えてはいないのでしょう。

ほかにも、推進派議員がしゃべろうとすると、
やじを飛ばして妨害をしたり、「選択別姓を認めると少子化が進む」なんて、
とんちんかんなことを言う人もいます。
そうかと思うと、これとは別方向の「夫婦別姓を望む女は
子どもを産まなくていい」などと吐く、冷酷非情な反対派もいます。

保坂三蔵氏のように、「参院選挙後に仕切り直しすべきだ」と、
先送りでうやむやにしようとする反対派も、いつものようにいました。
「いままで13回議論した。 先送りはしないでほしい」と
野田聖子氏が言うのですが、「憲法改正は議論に入るのに
50年かかった」などと来たものです。

最後のとどめを刺すように、中川昭一氏が部会に乗り込んで来ました。
そして、なんと、「どっちを向いて議論をしてるんだ!
なぜこの期におよんで法案を出そうというのか!」と、
どやしつけてくれたのでした。(『AERA』06年11月13日号による。)


かくして、滝法務部会長は、「意見集約は困難」と、
今回もまたまた無理だと、認めざるを得ないことになります。
つぎの日の3月12日、各新聞社は、今回も法案がつぶされたことを報じます。
たとえば、朝日新聞の記事のリードは、つぎのようです。
自民党が時代錯誤なのか、法案の機が熟していないのか---。 夫婦別姓を認める民法改正案の国会提出は、 今回も自民党のハードルを越えられなかった。 「法案提出だけでも」という推進派議員の仕掛けは、 「家族制度の崩壊」を危惧する反対論に押さえ込まれ、不発。 野党から繰り返し改正案が提出され、世論の関心も高い別姓制度だが、 自民党内の賛否両論は平行線のままだ。
安倍晋三幹事長の「部会で煮詰めたい」発言は、とてもしらじらしいですね。 http://www.jimin.jp/jimin/kanjicyo/1603/160312.html
Q. 夫婦別姓法案の今国会提出が見送りとなる方向のようですが、 幹事長のご見解をお聞かせ下さい。 A. 基本的に、これは部会でまだ議論が煮詰まっていない ということであると思います。 これは家族制度のあり方、社会の成り立ちも含めて 国の根幹にかかわることですので、まず部会でしっかりと 議論を煮詰めていただきたいと思います。
推進派のひとりである、佐々木知子議員は、 責任を感じたのか、さきのページで、「政治は結果である。 法案を通せなかった非力を私は冷静に受け止めてはいる」と、 あきらかに反対派議員たちのせいなのに、自分たちのせいであると述べ、 慰めのメールにたいしても、恐縮さえしているのでした。

謝辞
文章中に意味のわかりにくい箇所があったことを、
ご指摘くださった碧猫さま、ありがとうございました。

参考文献、資料
  • 朝日新聞 2004年3月12日
    夫婦別姓法案 今国会提出見送りへ 自民部会で異論相次ぐ
    「改正法案 提出だけでも」 推進派の仕掛け実らず
  • 毎日新聞 2004年3月12日
    夫婦別姓 法案提出困難に 自民推進派、戦略見直しも
  • 読売新聞 2004年3月12日
    夫婦別姓法案 自民、提出見送りに

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