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民法改正運動の展開 - 2008年
法に退けられる子どもたち

法に退けられる子どもたち

岩波ブックレットから、『法に退けられる子どもたち』という本がでました。
タイトルは、法律のせいで戸籍や国籍が取れず、
法的に不安定になる子どもたちがいる、ということです。
著者の坂本洋子氏は、ほかでもない「mネット」の共同代表のかたです。

内容は、家族や身分登録に関する、3つのこととなっています。
第1章は、離婚後300日以内に生まれた子が、前夫の子になる規定。
第2章は、日本人男性と、外国人女性のあいだの婚外子の無国籍問題。
第3章は、民法改正のひとつである、婚外子の相続差別規定です。


「300日規定」は、「父権の推定」のため、離婚してから
300日以内に産まれた子は、前の夫の子になるという規定です。
このせいで、現夫の実の子とわかるのに、
前夫の子とされるケースが、現在では多くなっています。

これは、ドメスティック・バイオレンスなどのため
わかれたけれど、相手の男性が、なかなか離婚届けに応じなかった、
といったことが、原因として多くなっています。
ほかに、医学の発達で、短い妊娠期間で産まれる
赤ちゃんが増えてきたことも、原因となっています。

「無国籍問題」は、日本人男性と、外国人女性とが、
法律婚をしているときと、婚外子でも胎児認知のときは、
産まれた子どもは、日本国籍を取れるのですが、
生後認知した婚外子だけは、国籍を認められないのでした。
08年6月に最高裁判所で、違憲判決が出たもので、
08年11月現在、法改正にむけて審議中です。

婚外子の相続差別は、もちろん嫡出の子の半分という規定です。
さらに、本では、戸籍や住民票の続き柄の記載も、
嫡出の子と婚外子とで、区別されることや、
この差別を撤廃するための裁判のことが、紹介されています。


現在直面している事態が、事例をあげてしめされ、
さらに法律や制度がそうなった歴史的経緯や、外国の事情、
現在の政治の動向などが、短いページ数で要領よく述べられています。
税込み504円で、冊子のような薄い本なので、すぐ読めるでしょう。
この分野について、知りたいかたはもちろん、
よくご存知のかたも、知識の整理に役立つと思います。

本が発行されたのは、11月6日になっています。
このときは、国籍法改正の大騒ぎは、まだ始まっていなかったのでした。
おそらく、このままつつがなく、改正されると思われたでしょう。
このあと、11月の中ごろから、12月中ごろにかけて、
約1か月におよぶ、反対派の混ぜ返し騒動が起きるのですが、
著者や出版者のかたは、いったいどう思われたでしょうか?

著者の坂本氏が、「300日規定」に、関わるようになったのは、
2005年4月にメールをもらってからとあります。
マスコミ(とくに毎日新聞)で、頻繁に取り上げられ出したのは、
2007年のはじめごろですから、世間に広く知られるより、
ずっと早かったことになります。

最後の「おわりに」の章には、自民党のバックラッシュ議員たちと、
その政権のことに、すこし触れてあります。
安倍晋三氏、山谷えり子氏、長勢甚遠氏といった、
バックラッシュたちが、最近の数年間でなにをしてきたか、
簡潔かつ要領よくまとめられていると思います。

ときの政権に対する批判も、しっかりとなされていて、
その内容も、よく目配せができていると、わたしは思います。
この最後の7ページだけでも、読む価値があると思いますよ。

安倍晋三氏は、あの「3500件の事例アンケート」の
プロジェクトチームの座長をつとめていました。
このシンポジウムで、「ジェンダーフリーの推進派は、
おばあちゃんは家族ではないが、猫は家族だというなど、
結婚や家族を破壊しようとする、ポルポトのようだ」などと、
でまかせを並べて、世論をあおったのでした。

ジェンダフリーに対する、こうしたひずんだ認識は、
一時期のバックラッシュのあいだで、よく見られました。
おそらく、彼らのオピニオンリーダーのようになっていた、
八木秀次氏の影響を、安倍晋三氏も受けたのでしょう。


安倍晋三の著書、『美しい国へ』にも触れられています。
さらに、07年2月に「子どもと家族を応援する日本」という、
重点戦略検討会議が、安倍氏の肝いりで作られ、実行に移されます。
これらが言う「正しい家族」は、婚外子や、母子家庭の子、
あるいは夫婦別姓の家族は、ふくまれないのはもちろんです。

たとえば、安倍政権は、06年にシングルペアレント家庭の
児童扶養支援手当てを、大きく減らしています。
また、06年度の高等学校の、家庭科教科書の検定では、
「家族の多様化」「夫婦別姓」「ジェンダー」などに
否定的な見解をつけ、修正がなされています。

ほかにも、安倍政権で法務大臣となった、
長勢甚遠氏は、「女性の貞操義務や性道徳」のためと称して、
「300日規定」改正を反対したことが、出ています。
例によって、現実を無視して、デマを流して、
安倍氏を含めた、自民党内の反対派議員をあおったのでした。

また、安倍氏と組んで、プロジェクトチームを先導し、
安倍政権では首相補佐官となった、山谷えり子氏は、
性教育の副読本を回収したり、第二次男女共同参画基本計画から
「ジェンダー」の語を削除することに、明け暮れていました。


このように、自民党のバックラッシュ政権は、「家族の価値」を楯にして、
女性の自己決定権に、真っ向から反対する家族政策を進め、
実効性のとぼしい、少子化対策を行なっていきました。

このため、07年11月の、「世界経済フォーラム」による、
男女平等指数の評価が、ひどかったことが触れられています。
このあとだったので、本には出て来ないですが、
08年10月の国連自由権規約審査の結果も、さんざんなものでした。

日本が06年5月の人口動態で、出生率が最低になって、
ショックを受けているのと、ちょうどおなじころ、
フランスでは、女性の自己決定権を尊重した政策がなされ、
その結果、出生率が上がったことが、注目されていたのでした。
それにもかかわらず、フランスを見習わなかったため、
日本がきわめて対照的となったことも、紹介されています。

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