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民法改正運動の展開 - 2005年
活動はくりかえす?

郵政選挙が近付いてきた、8月の末のことです。
『夫婦別姓を待つ身の溜息』という、おなじみのブログの、
つぎのエントリのコメント欄で、議論を吹っかけるかたがいました。
http://fb-hint.tea-nifty.com/blog/2005/08/post_6b82.html
http://fb-hint.tea-nifty.com/blog/2005/09/post_5084.html

入りこんだのは、「007」というハンドルのかたです。
民法改正法案が、いつまでも実現しないので、業を煮やしたのでしょう。
与野党とも推進派議員は、ていたらくだからだと、激しく攻撃してきましたよ。
ところがその内容は、ありがちな誤解と言わざるをえないです。

「007」氏の言いぶんは、いままで言われてきたことで、
反論できるもので、取り立てて新しい内容はないものです。
しかし、こうした認識を、賛成派が持ち続けていると、
反対論者たちを、かえって有利にする危険があるでしょう。
そういうしだいなので、「いままでの復習」だと思って、
おもな論点を見ていきたいと思います。


「007」氏の主張のひとつは、「臓器移植法」という
党議拘束をはずした前例があるから、より利用者の多い
夫婦別姓なら、なおさら実現するはずだ、というものです。
しかし、単に支持者が多いという理由で応じるほど、
ものわかりのいい反対派でないことは、2001年の世論調査で
賛成が上回ったときの反応などから、簡単にわかるでしょう。

民法改正法案が国会で審議にかけられたら、
ほぼ確実に可決でしょうから、党議拘束をはずすとなると、
反対派議員たちは猛反発をするでしょう。
法務部会やその直前の様子を見れば、すぐに想像できることですが、
党内は大混乱におちいるのは、まちがいないでしょう。
民法改正という、あまりセンセーションのない議題に対して、
そんなリスクの高いことに、執行部が応じることはないでしょう。

また「007」氏は、推進派議員による、議員立法も主張しています。
これは、衆院の場合50人以上の賛成があれば、発議できますが、
そのとき、執行部の了承も必要になります。
党議拘束とおなじ理由で、反対派議員から猛反発され、
党内は混乱をきわめるでしょうから、
やはり執行部が了解することはないと思います。

党議拘束の解除も、議員立法による発議も、
ずいぶん前から、推進派議員がさんざん模索してきたもので、
それでも、実現しないまま、今日まで来ているわけです。
なにをいまさらのように、「007」氏はこんなことを言うのかとも思います。

「007」氏は、野党間だけでなく、自民党を含めた超党派で、
民法改正法案を、提出すればよいとも主張します。
自民党の推進派を合わせた議会全体でなら、賛成議員は、
過半数をこえるのだから、法案は実現するはずというわけです。
あるいは、政界再編が必要なら、そういう法案を提出して、
自民党を切りくずしにかかるべきだ、とも言います。

数だけでしたら、つじつまは合うでしょうけれど、
野党から出た法案に、おいそれと自民党議員が賛成できないことは、
2000年に物議をかもした「加藤の乱」が、よい例だと思います。
このとき民主党から、森内閣不信任案が出たのですが、
野中広務氏などが、必死で沈静化に動いたので、
加藤紘一氏は不信任案に賛成するのを、結局やめてしまい、
自民党の切りくずしにはならなかったのでした。

かなり世論から注目された「加藤の乱」でさえ、茶番劇になるのですから、
ほかの法案で自民党を割るのは、ほとんど無理でしょう。
ましてや、ずっとセンセーションの低い民法改正では、
政界再編なんてとても不可能だと思います。
とはいえ、民主党は、「007」氏が考えるようには、
自民党を割ることに無関心ではないことも、たしかでしょう。


それから、「007」氏は、自民党の反対派議員でも
妥協できる内容の法案を野党は出せ、とも言います。
反対論者は、なにをやっても、寸分たりとも妥協しないことは、
「反対派は譲歩を受け入れるか」を、ご覧になるといいでしょう。
反対派が主張する通称使用の法案は、技術的に実現性がとぼしいし、
また反対派が「ただ言っているだけ」に等しく、実在もあやしいものです。

「007」氏は、民主党には政権担当能力がないとも、言っています。
政策重視の市民派議員が多く当選しているし、
法制局の活用や、対案路線の採用、マニフェスト選挙の定着など、
政権担当能力をしめすべく、日々努力を続けてきたし、
実際に能力をつけてきたのだと思います。
このあたりは、安直な民主党だめ出し論に、乗っているだけに思います。

自民党の体質をかんがみれば、すくなくとも、
民主党政権でなければ、民法改正は実現しないでしょう。
「007」氏のように、「だから野党は信用できない」と言って、
賛成派がみずから政権交代に、積極的に否定的になれば、
それこそ反対派の利益となり、かえって悪影響です。


そもそも、「007」氏は、反対派の抵抗が見えないようです。
自民党の法務部会の実態や、「オレの眼の黒いうち」発言に代表される、
頑迷きわまりない精神・思考構造、あるいは、神道政治連盟のような、
宗教系の反対派組織を、どう思っているのでしょうか?
わたしは、議論でも何度か指摘したのですが、
なぜか顧みてもらえないのです。

反対派の抵抗が、無視や軽視をされるのは、
選択別姓推進派に広く見られるシンドロームなので、
「007」氏もそうだったと言えば、それまでかもしれないです。
そして、そうしたかたは、ふたこと目には、
「推進派はやる気がないのだ」と、推進派バッシングに走って、
反対派を利する方向にむかうのも、よくあることだったりします。


さらには、「007」氏は、民法改正の重要性を、
やたら過大評価しているのも気になります。
わたしとしても、とても残念ですが、郵政民営化とくらべると、
センセーションなんて、まったく小さいと思います。
それこそ、現実が見えていないのではと、言いたくなってきます。

「007」氏は、本気で民法改正法案を実現する気があるなら、
政治生命を賭けるべきだ、という主旨のことを言います。
いくら本気になっても、民法改正ごときで、
そこまでするほうが、無謀としか言いようがないと思います。

ようするに、「007」氏は、野党や政権交代に対する不信、
反対派の抵抗の過小評価、専門家の能力の矮小化、
自民党の政策決定システムに対する無理解、
夢まぼろしのような政界再編への期待など、
よくありがちな誤解や偏見で、ものを言っていることになります。

一般の人たちの認識は、こんなものかとも思ったのですが、
自分の考えに対する自負心が、なぜかみょうに強く、
たとえば、「超党派で法案を発議して、民法改正する方法があるはずだ」
といったことを、執拗に言い続けるのです。

そこまで言うなら、具体的にはどうするのかと、
わたしは訊いてみたのですが、「自分はしろうとだから、
くわしいことはわからない」などと言うのでした。
それでは、考えなどないに等しいではないかと、思うのですが、
なぜにかくも確信が持てるのか、わからなくなってきます。


わたしのほかにも、見かねたかたが、たくさんいたのでしょう。
ブログ管理者をはじめ、何人もの読者のかたが出て来て、
事実誤認の指摘をしたりしています。
ところが「007」氏は、そうした反論もなぜか耳に入らず、
おかまいなしに、はじめの主張(信念)をくりかえすのです。

ついでですが、ブログ管理者も、1日に何度も出て来て
反論していて、なかなかすごいことになっています。
「007」氏のような認識が広がると、かえって悪影響ですし、
なんとかしなければというのは、わかるのですが、
なぜにそこまでやる?とも、ちょっと思いました。
それとも選挙前なので、あせりを感じたのでしょうか?


わたしの評価ですが、与党も野党も、国会議員は、
自分の立場で、できるかぎりのことをしていると思います。
推進派議員の活動については、深刻な不満はわたしはないです。

法案成立をはばむ最大の原因は、国会内外の強大な反対派勢力です。
ここにいちばん批判を集めるのが、本来だと思います。
ついで、責任があるのは、批判するべき相手を批判せず、
状況を適確に理解しないのに、自分の考えでうまくいくと過信して、
おカド違いの活動や批判ばかりする(その結果、足を引っ張っている)、
民法改正、選択別姓の推進派たちになるでしょう。

(September 10, 2005 at 07:03 PM)のコメントで、
わたしは、このように書いたのですが、
とくに後半は、「007」氏への皮肉も込めたのでした。
ご本人に、これが伝わったかどうかは、こころもとないです。

この「007」氏、かつて活動していた、インターネットの市民団体、
「氏名の会」のメンバーと、とても精神構造が似ていたりします。
(与党の推進派議員も酷評するなど、細かい違いはありますが。)
最初はその残党かと、わたしは、思いそうになりましたよ。

「私は、気が短いので、政権交代まで待てないです。」
「たんぽぽさんの目的は、民法改正じゃなくて、政権交代なのでしょうか?」
「反対派をいくら批判しても、実現にはつながりません。」
「たんぽぽさんこそ、批判ばっかりでなく、
実現への現実的な手法を、私にしめしてください。」
なんて、「殺し文句」まで、そっくりそのままです。

ところが、家裁認可制法案のことを、知らないようなので、
インターネットの市民団体「氏名の会」とは、おそらく無縁で、
本当にごく最近になって、民法改正に関心を持ちはじめたのでしょう。


政権交代のきざしが見えないと、いまの政権下で、
うまいこと実現しようして、こんな考えに
とりつかれるかたが出てくるのは、必至なのかもしれないです。

かつての、インターネットの市民団体がしていた活動は、
彼女たちだけが特別ではなく、運動の初期のころから、
似たようなことが、くりかえされているのではないか、
そして、そのときの失敗の知識や経験が、受け継がれないので、
あとの人たちが、おなじわだちを踏むのではないかと、
わたしは考えているのですが、すこし確証に近付いたようです。


それから、「007」氏は、コイズミカイカクの支持者のようです。
郵政民営化にも賛成しているし(コイズミ案と民主党案の
どちらに賛成しているの?くらいは、訊けばよかったか?)、
民主党よりコイズミ首相のほうが、信頼できるみたいです。

郵政民営化法案を、事前審査を通過させずに、国会へ提出させたので、
民法改正法案でも、おなじことを期待したのでしょうか?
郵政選挙が近付いて、コイズミがやたら注目されているので、
そのときの雰囲気に、浮かされたのもあるかもしれないです。

そういえば、「氏名の会」の代表世話人氏は、
イラクへの自衛隊派遣に賛成する、軍事的リアリズムの支持者でした。
「自己責任」ということばもお好きらしく、よく使っていました。
コイズミカイカクと、親和性がよいかただったみたいです。

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