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民法改正運動の展開 - 2007年
2007年の世論調査

世論調査 世論調査(2) 世論調査(3) 内閣委員会で選択別姓

2007年の1月に、民法改正の是非の意識を調査した、
内閣府による「家族の法制に関する世論調査」が、発表されました。
http://www8.cao.go.jp/survey/h18/h18-kazoku/
http://www8.cao.go.jp/survey/h18/h18-kazoku/3.html

2006年4月に要求があって、「今年度は世論調査を行なう」と、
言ったので、約束は守ったことになります。
前回2001年のときは、結果次第では、自民党の反対論者たちを、
説得できると信じられていたので、かなり熱気が入っていました。
今回は、民法改正実現の気運が、ぜんぜんないせいなのか、
それとも、法務大臣の長勢甚遠議員が、反対派だからなのか、
いまひとつセンセーションがなかった感じです。

 
いちばん注目を惹くのは、やはり調査票のQ11〔回答票17〕で、
民法改正の是非そのものを、問うたものです。(図17参照)
法律改正に賛成は、前回01年のときは42.1%でしたが、
今回は36.6%へと、後退してしまいました。
そして反対は、29.9%から35.0%と、増えてしまいました。

賛成と反対が接近したというので、「民法改正の必要はなし」と、
長勢甚遠法相は、あっさり決めこんでしまいました。
前回01年の調査のときは、賛成のほうが多かったので、
自民党の反対派勢力は、だまって無視するだけでしたが、
今回は安心して反対できたみたいです。

わたしの印象を言えば、「まあこんなものか」でしょうか。
最近の安倍内閣の風潮から考えて、後退もありえるかもと、
わたしは、思っていましたし、想定の範囲内でした。
それに、結果が賛成に有利であっても、反対論者でかためられた、
安倍政権の顔ぶれからして、無視されるのが関の山でしょう。
世論調査自体が、義務の消化という感じでしたし、
たいして興味もなかったのでした。

ところが、あちこちの、選択別姓関係のサイトを見ていると、
醒めたわたしと違って、みなさん関心があったようです。
(いや、民法改正実現の絶望的な、安倍政権の風潮だからこそ、
世論調査に期待したのかもしれないです。)
そのせいもあってか、今回の法改正賛成の後退は、
ショックを受けたかたも、たくさんいらっしゃったのでした。

当然ながら、調査結果やその扱われかたは、納得されずにいます。
マスコミは、Q11ばっかり大きく取り上げるとか
(その設問がメインですから、無理もないと思うのですが)、
結婚当事者の20-30代の回答率が低いとか、不満がたくさんあったのでした。
(サンプルの偏りは、あとでお話するように、たしかにある感じです。)


Q11以外の、ほかの設問はどうなのかと言うと、
結婚改姓で、「職業上の不便があると思う」と答えたかたは、
前回01年の41.9%から、今回は46.3%に増えています。
そのうち、「不便を生じないようにしたほがよい」と答えたかたは、
56.7%から62.7%へと、これも上昇しています。
さらに、「改姓したくない理由で、内縁の夫婦もいると思う」と、
答えたかたも、57.0%から62.1%に増えています。

また、反対論者たちの大好きな「家族のきずな」も、
「別姓でも影響ない」のかたは、52.0%から56.0%へと増えていますし、
「子どもに影響ない」も、26.8%から30.3%へと上昇しています。
ただし、結婚改姓にともなう自己喪失感については、
「感じる人がいると思う」は、45.7%から40.7%と減少し、
「自己喪失感もしかたない」も、38.9%から43.7%に増えています。

自己喪失感に関しては、共感されなくなっているものの、
事実婚や通称使用は、社会的に受け入れられてきて、
かならずしも、夫婦別姓が拒絶されているとも、言えなくなっています。
それにもかかわらず、肝心の法改正はするべきでない、
という回答が、多くなったことになります。

なぜこのような、「ねじれ」が、出たのでしょうか?
通称使用や事実婚が、まがりなりにも認知されてきて、
法律改正の必要が感じられなくなったのも、あるのかもしれないです。
それとも、このところ、民法改正が話題にならないので、
「もう必要ではなくなった?」と、漠然と思われたのでしょうか?
希望する人は増えているけれど、そんな人の選択は禁止してよい、
という考えの人が増えたのだとしたら、喜べない状況です。

『AERA』07年2月12日号
週刊誌の中では、いちばんよく民法改正を取り上げている
『AERA』でも、07年2月12日号で、今回の世論調査の分析しています。
「『夫婦別姓』20代30代の転向 明るくリアルな『家』回帰」
|切望している人もいるだろう「選択的夫婦別姓制度」。
|なのに、20代30代で賛成派がガクンと減った。 なぜだろう。(リード)

今回のQ11に相当する、「選択別姓を認めるよう、法律改正してよいか?」
という設問について、1976年以来の世論調査の結果をグラフにしています。
これを見ると、賛成が減って、反対が増えるという後退現象は、
じつはこれまでにも、2回あったことがわかります。
過去8回の移り変わりを眺めていると、今回の後退も、
変動範囲内のように、見えなくもないです。

推進派の後退は、結婚当事者はずの、20代と30代が、
大きく寄与していると、『AERA』では分析しています。
30代の女性では、法改正賛成は、前回の52.9%から40.2%に減っています。
これは、通称が使いやすくなったせいで、働く女性が、
民法改正の必要を、感じなくなったことによると考えられています。

また、社会不安が増して、職場でも競争で緊張が多くなったいま、
家庭だけは、もめごとがなく、安らげる場所でありたいという
願望も増えていて、それで、それなりに覚悟のいる、
別姓結婚を避けるようになったからだと考えられています。


なかには、「家族で殺しあう事件が頻発するから、
家族の絆を希薄にする、選択別姓に反対」というかたもいたりします。
(わたしに言わせれば、このように、他人の選択を制限する考えかたが、
社会全体のストレスを高めて、犯罪の増加を招くのだと思いますが。)

「別姓で家族の絆が弱まる」「家庭内犯罪が増える」という、
根拠のない「デマ」を流して不安をあおる、
反対論者の戦略が当たっていると言えます。
安倍政権のもと、反ジェンダー平等的雰囲気が高まるなかで、
バックラッシュの影響力が強まったことの、現れでしょうか?

このように、非改姓結婚を希望する動機が、中くらいの人たちや、
社会問題を主体的に解決せず、それを避けることしか考えない小市民的な人、
あるいは、反対論者の言うことを、そのまま信用する人たちも、
むかしからいたはずで、いまにはじまったことではないです。
それでも、20代、30代で、目立つようになったのは、
最近の世相の反映ということなのかもしれないです。


記事では、新たな当時者として、50代、60代の女性から、
別姓を希望する人が増えていることに、注目しています。
(これらの世代は「当事者でないのに、反対だけする」と、
いままでは、恨まれることが多かったのでした。)
熟年離婚が増えてきて、これらの人たちこそ、
「自分の結婚」に、リアリティが出てきたからと考えられます。

また、この世代のほうが、「夫の苗字になる=相手の家に入る」
という意識が、戦前世代に近いせいか、強くなっているようです。
若年層は、イエ制度と、すでに無縁なことが多いせいか、
結婚改姓とイエ意識が、かえってリンクしないのでしょう。

ところで、導入する制度は「選択制」ですから、
自分にとって必要かは、いちおう関係ないはずですが、
これについては、まわりに必要な人がいなさそうだから、
法改正も不要なんだろうと、単純に思われたと見られています。

『AERA』は、最後で、つぎのように述べているのですが、
自分で考えないで、まわりに流されるのもまた、当節流と言えそうです。
========
社会が混沌として情報があふれすぎて、何が善か悪かも
分らなくなっている現代では、何事を判断するにも
自分の周りのごく身近な基準に帰着するようになっています。
そういう傾向が、今回の調査結果にも影響しているのかもしれません
========

東京新聞 2月10日「暮らし」欄
そのあと、1月の民法改正の世論調査について、
信憑性があやしいと、疑問を呈している記事が掲載されました。
2月10日の、東京新聞(「暮らし」欄)の、調査結果の分析です。
「『別姓反対』増えたって本当?」

なにがあやしいかというと、回答者の年齢構成です。
20-24歳が3.6%、25-29歳が4.5%なのに対し、55-59歳が13.2%、
60-64歳が11.1%と、異様に高率です。(調査票のF2参照)
中高年でニーズが増えたらしいと言っても、
全体としては、まだまだ若年層のほうが、当事者は多いでしょう。
偏った年齢構成のせいで、法改正反対が多くなったことは考えられます。

既婚と非婚や、子どもの有無の比も、偏りがあると指摘されています。
非婚が13.3%に対し、既婚は86.6%(調査票F4)であり、
また既婚のかたのうち、子どものいるかたが92.9%もいるのに対し、
子どものないかたは7.1%しかいないのです。(調査票F5)

 
こうした調査結果に対して、「面接調査をしているが、
若い層は不在や拒否が多くて」などと、内閣府は弁解しています。
しかし、これで「今後の施策の参考とする」のですから、
信頼性を上げるために、回答数を増やす努力は必要だと思います。
前回の2001年のときは、得られた回答数は、実際の人口構成に、
ずっと近かったのですが、このときも若いかたや、
独り暮らしのかたは、家にいないことが多かったはずです。

2001年のときの法相は、森山真弓氏で、熱心な推進派でした。
政策決定の参考資料を作るという、責任感もあったと思いますが、
結果しだいでは、自民党内の反対派を説得できると、信じられていたので、
じゅうぶんな信頼性を得るための、努力をしたのでしょう。

今回のときは、法相は長勢甚遠氏で、頑迷きわまりない反対派です。
民法改正の世論調査なんて、たぶん気が進まなかったのかもしれないです。
それでも、06年4月に、今年度は行なうと、前任者が約束したので、
義務の消化のつもりで、行なったのかもしれないです。
それで、めんどうなことをしてまで、調査の信頼性を確保する気など、
なかったのかもしれないです。


さきに触れたように、大手マスコミは、
民法改正自体の是非を問う、調査票Q11の設問ばかり取り上げて、
賛成が減って、反対が増えたと言うだけで、事実婚や通称使用が、
容認されていることを示す、ほかの設問には、ほとんど触れないのでした。
こうした、大手マスコミの報道も偏りがあると、
東京新聞の記事は、批判的になっています。

大手各紙の扱いは、残念ながらあまり大きくないようです。
それで中心的な話題である、法改正の是非だけ記事にした、
ということかもしれないです。

あるいは、これも、安倍内閣の風潮というもので、
政権が嫌いそうな話題を、避けているのもあるのでしょうか?
なにかというと、安倍政権に都合のいいような、
報道のしかたをするのは、このところの、大手マスコミです。
そうした、安倍へのお追従ぶりが、「別姓を望む人たち」にも、
降りかかってきたのかもしれないです。

いずれにしても、今回の世論調査は、前回の調査よりは、
ずっとずさんなことはたしかそうです。
今回の調査結果を見て、ショックや、いきどおりを
感じていた人たちも、東京新聞の記事を見て、
気を取り直したり、心の平安を得たりしたみたいです。

内閣委員会で、民法改正の世論調査
2月21日の内閣委員会では、民主党の小宮山洋子議員が、
今回の選択別姓の世論調査について、質議していました。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/166/0002/16602210002002a.html
http://www.shugiintv.go.jp/jp/video_lib3.cfm?deli_id=33595

質議の内容は、東京新聞で指摘されたことが、中心となっています。
法改正反対が増えたのは、若年層の回答率が低いことが考えられ、
調査の信憑性があやしいこと、改姓の不便さの理解の浸透や、
通称使用、事実婚の容認など、民法改正自体以外のことでは、
支持が増えているのに、それらがあまり報道されないことなどです。


ところで、こちらでは、「さすが小宮山さん。見事に代弁して
くださったような気がします。」なんて、持ち上げています。
http://fb-hint.tea-nifty.com/blog/2007/02/post_3602.html

ふだんは、「自民党政権である以上、野党が法案提出しても、
相手にされないから無意味」と言って、選挙で投票するとき以外は、
野党議員なんて、ほとんど興味がないはずなのです。
それでも、今回はこうして注目して、評価しているというのは、
「別姓を望む人たち」は、わたしが想像する以上に、
世論調査の結果に、屈折していたのかもしれないです。

参考文献、資料
  • AERA 2月12日号
    「『夫婦別姓』20代30代の転向 明るくリアルな『家』回帰」
    切望している人もいるだろう「選択的夫婦別姓制度」。
    なのに、20代30代で賛成派がガクンと減った。 なぜだろう。
    (リード)

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