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アポロ計画陰謀論(4)
アポロ以降月旅行がないのはなぜか?

ムーン・ホークス(2)
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「陰謀論」を信奉する人たちの「根拠」として、アポロ計画以来、
だれもお月さまへ行っていない、ということがあります。
http://henrryd6.blog24.fc2.com/blog-entry-252.html
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二つ目は、もう一度、月に行ってこいである。
「あれから35年もたったのだから、もう一度月に、
行ってきなさいよ。簡単なことだろ?」である。
「もう一度、月面着陸をやってみせてくれ」という私からの要求である。

そうすると、それに対して「行く理由がないのです」とか
「月の資源の調査はあの時に終わりました」とか、
「費用がものすごくかかる(250億ドル、約3兆円!)のです」
というような、おかしな「もう行かなくてもいい理論」を、
私への反論者たちは必死で言い募った。
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このあと、ブッシュ大統領が、月旅行をふたたび始める計画を、
2003年12月に発表したというニュースが取り上げられます。
ところがこれは、月旅行を20-30年後を目標にしているので、
1969年にできたことが、そんなにさきにならないと、
もう一度できないのはおかしいのであり、
月旅行はやはり捏造だったのだと、勝ち誇ったようになっています。

ブッシュ大統領が、人類の月面着陸の計画をしたのは事実です。
2004年1月14日に、この「新宇宙計画」は正式に発表され、
ここでは、お月さまへ行くのは、2015年が目標となっています。
「ブッシュ大統領の「新宇宙計画」――月面基地や火星への有人飛行も視野に」
http://wiredvision.jp/archives/200401/2004011501.html


近年の宇宙開発の停滞に、不自然さを感じるのは、
副島隆彦のような、陰謀論者だけではないようです。
さきにご紹介したオリコンのアンケートでも、
月旅行がずっとないことを理由に、捏造だと思う人がいたのでした。
アポロ計画の当時から現在にいたるまでに、
科学技術は発達したはずですから、月旅行はもっと容易に
なってよいと思うのも、無理もないかもしれないです。

月旅行がふたたびなされないのは、「莫大なお金がかかるから」
というのは、どこもまちがいではないです。
さきのワイアードの「新宇宙計画」の記事を見ても、
最初の5年だけで、120億ドルはかかるとしています。

お月さまには、天文学的興味が惹かれるものはすくなく、
新たに研究することは、そんなにありません。
アポロの宇宙飛行士たちが行なった実験や、
持ち帰ったようなサンプルの収集は、無人の探査機でもできますし、
そうしたほうがずっと安全で、コストも少なくてすみます。

アポロ計画は、醒めた言いかたをすれば、「ためにする旅行」であり、
わざわざお月さまへ行く動機は、それだけだとも言えるでしょう。
人類の月面着陸を行なった(それを技術的に可能にした)こと自体が、
「サイエンス(といよりテクノロジー)としての実り」に、
しいて言えばなるのだと思います。


それならば、なぜこの無謀で無茶なことを、
実行したのかと、気になるところだと思います。
アポロ計画の時代は、アメリカとソビエトとのあいだで、
宇宙開発をめぐって、しのぎを削っていたときでした。
さきにお話した、1962年のスターフィッシュ計画による、
大気圏外での核実験も、そうした宇宙開発競争の一環でした。

1960年ごろというのは、宇宙開発では、ソビエトが
アメリカに対して、いつも一歩前にいる感じでした。
1957年10月4日に、世界ではじめての人工衛星、
スプートニク1号が、ソビエト連邦によって打ち上げられ、
世界の世論は衝撃を受けたのでした。

ところがその興奮もつかのま、ソビエトは、1961年4月に、
ボストーク1号を打ち上げ、搭乗したガガーリンによる、
世界ではじめての宇宙飛行が成功をおさめました。
「地球は青かった」という、有名なセリフを残したフライトです。
http://sasakima.iza.ne.jp/blog/entry/151395


アメリカの世論は、これにおおいに衝撃を受けました。
そして月面着陸は、絶対にアメリカが先でなければと、強烈に思いました。
ときの大統領ケネディが、1960年代のうちに
かならず人類の月面着陸を実現すると、約束したのは有名なお話です。
1962年9月12日、ライス大学で行なわれた、
「月の演説」と言われる、有名なスピーチです。
http://www.lizard-tail.com/isana/podcast/the_moon_speech.html

ときは冷戦の真っ最中であり、アメリカ人には、
ソビエト連邦への対抗意識が、ものすごくあったのでした。
それで、アメリカ合衆国の威信のためにも、この無茶な計画に、
通常ではありえない、膨大な予算を投入することが承認されたのでした。

それで、はじめから、予算の無駄づかいを理由に、
反対する意見も、すくなからずあったのでした。
1967年1月27日、アポロ1号で、コックピットの火災が起き、
訓練中の乗組員が3人とも亡くなる、という事故が起きると、
計画を打ち切れという世論が強まったりもしました。

アポロ11号で、ついに月面着陸を成し遂げると、もういいはずだと、
残りの計画を打ち切りにせよ、という世論が、ふたたび高まりました。
またアポロ計画は、はじめは20号まであったのですが、
最後の3回は、予算の理由もあって、本当に打ち切られました。
さらにこのあと、お月さまで数カ月滞在してから、地球へ返るという
「応用計画」もありましたが、これも全部中止になりました。

結局、アポロ計画を、政治的に批判するとしたら、
「冷戦時代の産物」「お金の無駄遣い」になるだろうと思います。

つぎのページは、異論のあるかたもいるかもしれないですが、
そうした側面があることも、たしかだろうと思います。
加藤万里子氏という、天文学の研究者のサイトで、
『パノラマ太陽系』という、ビデオ教材の批評のひとつです。

「ビデオ教材その8 パノラマ太陽系 『月』」
http://sunrise.hc.keio.ac.jp/~mariko/educ/8tsuki.jis
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アポロ計画は,スプ−トニク・ショック以来のアメリカの
ソ連にたいする宇宙開発競争の結果であり,
政治的,軍事的な主導権あらそいから生まれたものである.
これだって戦争の一種ではないだろうか.
また,月面着陸は,ベトナム反戦運動や激しい人種差別などの
国内事情から目をそらせ,宇宙に国民の注目をひきつけて
国威発揚することに重要な目的があった.
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「アポロ計画」の政治的批判というと、この加藤氏のサイトに
あるような内容がスタンダードなのかと、わたしは、思っていました。
たまたま、わたしが最初に読んだ、政治的批判だったので、
印象が強いだけ、というのもあるかもしれないですが。

「冷戦の代理戦争」とか、「ベトナム戦争から
目をそらして国威発揚」なんて、反米ポピュリストたちや、
「リベ平(リベラル・平和系)」のかたに、じゅうぶん受けそうに思います。
ところが、どういうわけか、こういう主張はあまり広まらず、
ソエジー(副島隆彦)みたいな、得体の知れない
陰謀論がはやるのは、いかんともしがたいです。

参考文献、資料
  • 「ブッシュ大統領の「新宇宙計画」――月面基地や火星への有人飛行も視野に」
    http://wiredvision.jp/archives/200401/2004011501.html(2004年01月15日)
    ふたたび人類が月に着陸する計画についての、ワイアードの記事
  • 「「地球は青かった」は「地球は優しく光る淡い水色だった」」
    http://sasakima.iza.ne.jp/blog/entry/151395
    ガガーリンのインタビュー「地球は青かった」が、
    もとのロシア文とともに紹介されています。

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