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アポロ計画陰謀論(3)
放射線帯が通過できない?
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アポロ計画陰謀論の信者は、「地球のまわりには、
放射線帯(バン・アレン帯)があって、強い放射線が出ているから、
人間が宇宙船に乗って通過はできない」と言って、
お月さまへの旅行はでっちあげと言うことがあります。

放射線帯のことは、副島氏の本にも出てくるし、
つぎのエントリを書いたかたも、そう信じていらっしゃります。
http://henrryd6.blog24.fc2.com/blog-entry-252.html
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おまけにヴァンアレン帯という強い放射能の帯が地表から
3,000〜4,000Kmのところと2万Kmのところにふたつ存在する。
要は有人宇宙飛行とは言っても地球のごくごく表面を
ぐるぐる回っていたのに等しいのだ。
ヴァンアレン帯という危険な壁を突き抜けてその外へ有人で行く
ということには決して成功していなかったのである。
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「放射線」とは、「高速で運動するエネルギーが高い粒子」と、
「波長が短い電磁波」の両方を指して言います。
放射線を浴びると、人間をはじめ、生物はがんにかかりやすくなるなど、
さまざまな障害が起きますから、そんなものがたくさんある領域を、
宇宙船に乗って通過すれば、ただではすまないような気がしてきます。


「放射線帯」は、発見者の名前を取って、「バン・アレン帯」とも
言うのですが、実際のところはなんなのでしょうか?
これは高いエネルギーを持った、電荷を帯びた粒子が、
ドーナツ状に、地球のまわりを囲んでいる領域のことで、
下の左側の図の赤色でしめしたところです。
(わかりやすくするため、右側の図で、かなり簡略化しています。)

ご存知のように、地球は大きな磁石で、まわりに磁場ができています。
電荷を持った粒子がやってくると、ここに捕らえられて、
地球のまわりを、まわり続けることになります。
(棒磁石の上に紙をのせて砂をまくと、磁気力線に沿って砂鉄が並びますが、
これを3次元的にしたと、ごく簡単には思ってもいいでしょう。)
こうした捕らえられた粒子は、地球の磁場に引かれて加速され、
高いエネルギーを持つようになります。

 


成分はおもに、プラスの電荷を持った「陽子線」と、
マイナスの電荷を持った「電子線(ベータ線)」で、
これらに放射性があるので、放射線帯ということになります。
供給のもとはおもに太陽で、これらの粒子が飛んでくるようすを、
風にたとえて、「太陽風」と呼ぶことがあります。

放射線帯には、上の図のように、大きく「内帯」と「外帯」の
ふたつの領域があり、内帯は赤道上空3000km、
外帯は上空20000kmを中心に広がっています。
電子線は、内帯と外帯の両方に広がっていて、
陽子線は、ほとんど内帯だけに存在しています。

あいだの赤道上空9000kmから150000kmの領域は、
放射線がないすきまですが、これを「スロット」と言います。
スロットが存在する理由は、磁場の強さと地球の重力のかねあいと
考えられていますが、はっきりしたことはわからないようです。

興味のあるかたは、つぎの冊子をご覧になるといいでしょう。
名古屋大学地球環境研究所の、一般向けコーナーのコンテンツで、
いろいろなことが、とてもわかりやすくお話されています。
このページも、この冊子を多く参照しています。
「放射線帯 50のなぜ」(PDFファイル)
http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/ste-www1/naze/housha/housha.pdf

放射線のシールドというと、ガンマ線やX線をさえぎるのに使う、
厚ぼったいなまりの壁を、思い浮かべるかたも多いと思います。
放射線は物質を透過できるので、アポロの宇宙船と言えども、
壁をつきぬけて中まで入り込むのではと、気になるところです。

その透過力ですが、これは放射線の種類や、
持っているエネルギーに、とうぜんながら依存しています。
放射線帯のひとつ目の成分である、電子線の場合、
1メガ電子ボルト(注1)のエネルギーであれば、
厚さが1.5mm程度のアルミニウムの板でさえぎることができます。

5メガ電子ボルトの高エネルギーになると、
厚さ1cmくらいまで貫通できるようになります。
それでも、ガンマ線やX線とくらべると、はるかに透過力が弱く、
おなじみのなまりの壁を持ち出すまでもないです。

下の図に、地球からの距離と、放射線帯の電子の数を
グラフにしたものがありますが、これを見ると
5メガ電子ボルト以上の電子線は、ほとんどないことがわかります。
アポロの宇宙船の壁は、1cmよりはずっと厚いですから、
電子線の大部分はさえぎられ、船内まで透過しないことになります。




もうひとつの成分の陽子線ですが、これは内帯に、
500メガ電子ボルトに達するものが存在しています。
陽子線は粒子が大きいぶん、電子線よりさらに透過力が弱いのですが、
それでも、このくらいの高いエネルギーになると、
宇宙船の壁を通り抜けるようにもなってきます。

ところが内帯は、厚さが3000kmくらいと薄いので、
1秒間に9キロメートルで飛行する、アポロの宇宙船の速度であれば、
数分で通り抜けることになります。
したがって、宇宙飛行士たちが浴びる放射線の量は、
たいしたことがないと、わかるでしょう。

結局、宇宙飛行士の生命にかかわるほど、
放射線帯の粒子は、宇宙船の中まで透過しないのでした。
バン・アレンが、放射線帯を発見したのは、1957-58年ですから、
アポロ計画を始めたときは、存在が知られていたことになります。
宇宙飛行士が受ける放射線量くらいは、事前にじゅうぶん
研究や調査をしていたことももちろんで、
生命に危険がないよう、宇宙船を設計していたのでした。


アポロの宇宙飛行士が、ほとんど被爆しないとすると、
宇宙の放射線はたいしたことないのかというと、そんなことはないですよ。
すぐに通過してしまう宇宙船と違って、人間が長いあいだ
宇宙に滞在するときには、放射線は相応に危険なものとなります。

たとえば、宇宙ステーションは、高度が400kmくらいの
ところにあり、放射線帯より、はるかに内側にいます。
それでも、太陽の活動が活発になって、太陽からの放射線が増えると、
そこで活動する人間には、危険をおよぼすことがあります。
磁気嵐や、太陽風のようすを、天気予報と同じように予報して、
放射線が増えそうになったら、宇宙ステーションで、
活動している人たちは、壁の厚いところへ避難したりもします。

ほかにも、地球のまわりをずっと飛んでいる人工衛星も、
無人ではありますが、放射線が当たると、計器を壊されたり、
誤動作をさせられるおそれがあるので、
それを防ぐための、じゅうぶんな保護がなされています。

これまでお話したように、「アポロ計画陰謀論」に出てくる
一般的な主張は、「放射線帯が通過できない」です。
ところが世の中には、さらに上をいくかたも、いたりします。

つぎのエントリによると、アポロの宇宙船を通過させるために、
核ミサイルを放射線帯に撃ち、二重にしてしまったのだそうです。
「放射線帯が二重になった」は、なんのことなのでしょう?
内帯と外帯でしたら、さきにお話したように、もとからあるものです。

http://310inkyo.jugem.jp/?eid=414
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米国はヴァンアレン帯に核ミサイルを撃ち込んで、
恐ろしい環境を作ってしまった!
米国は、ここに核ミサイルを撃ち込んで、
ロケットが通れる空間を作ろうとしたのだ。
しかし、それは失敗に終わり、とんでもないことになってしまった!
二層になっているヴァンアレン帯の外側に、
さらにもう一層ヴァンアレン帯を作ってしまったのだ。
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将来の宇宙旅行のことなどを考えて、
放射線帯に穴を開けることは、実際に考えられてはいます。
しかしこれは、核ミサイルではなく、プラズマ波動を撃てば、
開けられるとされています。(『放射線帯 50のなぜ』の
「29.」「30.」「40.」などを参照のこと。)

プラズマ波動は、磁気嵐や、大気圏のかみなりなどで、
自然に発生して、放射線帯の放射線を、大気に落とすことがあります。
これを人工的に行なおうというものです。


コメント欄でも言われていますが、1962年とあるので、
スターフィッシュ(ひとで)計画という、アメリカが行なった、
大気圏外の核実験のことかもしれないです。
このときばらまかれた放射性物質が、地球の磁場につかまって、
人工放射線帯となったのは、実際にあったことです。
(『放射線帯 50のなぜ』の「13.」を参照)

これは、もちろん、アポロ計画のためではないし、
放射線帯に穴を開けようとしたのでもないです。
人工放射線帯のおかげで、放射線帯の現れかたや、
消えかたがわかって、研究には役立ちましたが、
おそろしい環境になったのではないようですよ。
それでも現在は、大気圏外での核実験は禁止になっています。

(注1)
「電子ボルト」は、1個の電子が真空中で、
1ボルトの電圧で加速されるときに得るエネルギー。
「ボルト」とついているけれど、エネルギーの単位なので注意。
1電子ボルト = 23.06 kcal/molである。


参考文献、資料

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