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林道義氏の進化論(5) そして優生学思想へ [1] [2] [3] [4] [5] |
かくして、林道義氏は、トンデモな遺伝や進化の理解で、 「父性」や「母性」を、遺伝させていることになります。 これは、自分の家族観やジェンダー観の正当化であり、 大勢の人たちが、これに従って生活させることに、ほかならないです。 「父性」や「母性」が、「生物学的に遺伝する」と言えば、 さからいようがないと思われて、他人を従わせやすくなります。 また、「父性」や「母性」に反対して、独自の生きかたを 模索する人たちには、「遺伝だから変えられない」とか、 「本能を破壊する」とか言えば、批判を封じやすくなります。 ところで、「母性」や「父性」が、不健全になったのが、 遺伝が原因だというなら、病気を起こす遺伝子を取り除くことも、 現代の医療技術、遺伝子工学技術なら、できるようになっています。 また、心理的な症状でしたら、カウンセリングもありますし、 ホルモン投与のような、医薬品による治療も考えられます。 ところが、林道義センセイは、このような、 医学的な「治療法」の議論をすることは、なぜかないのです。 『父性の復権』という本は、健全な父性にもとずく家庭教育は、 どうあるべきかという、教育論を延々と述べているのです。 本当に変えられない「遺伝」であれば、トイレに行ったり、 眠くなったりすることと、おなじくらいあたりまえのことでしょう。 学習などさせなくても、ひとりでに維持できるはずです。 「語るに落ちる」というか、ひたすら教育を語るというのは、 「生物学的基盤」と言いながら、じつはイデオロギーにすぎないという、 馬脚を現わしていると、わたしは思います。 ところが、前のページで見たように、林道義氏は、 多数の個体による経験が、遺伝子となって取り込まれるとか、 適応したい意志があって進化するとか、まじめに信じている人です。 それゆえ、教育の力で解決できると、本気で思っていて、 「馬脚を現わしている」ことが、理解すらできないのだと思います。 |
さらに言えば、こうした考えを推し進めていくと、 「母性」「父性」の欠如した人間は、遺伝的に劣っているから、 人類という種を健全に保つために、取り除く必要がある、 という「優生学思想」へおちていく危険があります。 たとえば、アメリカ合衆国や、スウェーデンでかつてなされた、 知能が低い(と決められた)人に不妊手術を強制する「断種」は、 こうした考えを、突き詰めた結果だったのでした。 そのむかし、知能は遺伝すると信じられていました。 それで、精神薄弱の遺伝子を除くことが、 人類の知的水準を保つ上で、このましいと思われていたのでした。 林氏の考えが、こうした危険をはらんでいることは、 『道義リンクス』のひょみ氏も、つぎのように指摘しています。 http://www.ne.jp/asahi/hyo/tadaon/michilyn/reviews/fusei.html ======= ついでに言ってしまうと、進化論をこのような社会行動 (動物行動学も含め)に適用することが、骨相学〜犯罪人類学などと結びつき、 のちにナチズムを支える優生学思想を生んだ と(い)うことは覚えておいていいと思います。 ここで展開されているのは、社会ダーウィニズムの焼き直しであり、 その先に連なっているのは選別・差別の思想です。 ここから、「父性/母性の欠如した男性/女性は、遺伝的に劣った存在である」 などという民族浄化まがいの言説までは、あと一歩です。 ======== 林道義氏は、このように言われたことが、とても不満なようです。 「4 「社会ダーウィニズム」というレッテル貼りはファッショ的である」 というタイトルの節で、つぎのように反論しています。 http://www007.upp.so-net.ne.jp/rindou/fusei4.html ======== この部分は暴論を通りこして、どちらがファシストかと 言いたくなるほどの、言葉の暴力と言うべきである。 まさに「風が吹くと桶屋が儲かる」式のこじつけを、しかも何回も繰り返して、 その結果私がナチズムやファシズムときわめて近い位置にいる (「あと一歩」)と印象づけようとしている。 私は進化論を社会行動に適用などしていないし、 骨相学〜犯罪人類学と結びつけてもいないし、 「のちにナチズムを支える」優生学思想を生みだしてもいないし、 もちろんそのような可能性は皆無である。 ======== |
ヒトラー・ナチスの、優生学思想の根拠となったものは、 ご存知のように、「北方人種優越論」です。 アメリカ合衆国が、第一次世界大戦に従軍させる際、 将校と兵卒のどちら向きかを判定するため、知能検査を使いました。 このとき、アングロサクソン系が、知能が高い結果になりました。 これが「北方人種優越論」のもとになった研究です。(注1) これをもとにして、「アーリア人種は知能が高い」と主張し、 「ユダヤ系の知能の低い遺伝子が混じるから、 ドイツ人の知能が劣化する」と考えて、ニュルンベルク法から、 「夜と霧」の悪夢にいたることになったのでした。 ようするに、ナチスによる一連のユダヤ人迫害は、 「ユダヤ民族の遺伝子の根絶」が、目的だったとも言えます。 林道義氏は、母性や父性の「遺伝子」を持つ人間が、 「健全だ」と言うのですから、選別と排除の前段階である、 遺伝子による人間の優劣は、主張していることになります。 そして、このさきに、優生学的な排除がつながっていること、 (過去につながったことがあること)は、レッテル貼りでも、 ことばの暴力でもなんでもない、まごうことなき事実です。 林道義氏ご自身は、学校や家庭の教育で、 解決するつもりでいて、父性や母性の欠如した人たちの、 選別や排除までは、たしかに主張していないようです。 しかし、林道義氏の影響を受けた人たちが、 父性や母性の欠如した「遺伝子の根絶」を主張して、 優生学的な排除に向かう可能性は、じゅうぶんあるでしょう。 あるいは、ナチスがなにをしたのか、優生学思想はなんなのか、 林センセイは本当に、ご存知ないのかもしれないです。 しかし、こうした無知や無理解によるナイーブさもまた、 危険であることは、言うまでもないでしょう。 |
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