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林道義氏の進化論(3)
進化のメカニズム
たいくつなお話
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「遺伝」のメカニズムは、前にお話したように、
遺伝情報を持った、DNA分子の親から子への継承でした。
それでは「進化」は、どうやって起きるのでしょうか?
(そんなことは、わかっているからもういい、とおっしゃるかたは、
このページは飛ばして、さっさとつぎにいきましょう。)

ご存知のように、生物が何世代も下るうちに、
べつの生物種へと変化していくのが生物進化です。
ところが単に、子孫にDNA分子が伝わっていくだけなら、
形質が変化しないので、生物種としても変化しないはずです。


DNA分子は、とても長い分子(高分子)であり、複製のとき、
遺伝情報を表わす、4種類の核酸塩基の並びかたが、正確に写されず、
いくらかの割合で、ミスコピーされることがあります。
これによって、遺伝情報の一部が、変化することになり、
親と違った形質を持つ子が、現われることになります。
このように、子の形質が変化することを、「突然変異」と言います。
これは、遺伝情報(核酸塩基の配列)のミスコピーですから、
まったくの偶然で起きることは、わかると思います。

突然変異で生じた、新しい遺伝子を持つ個体が、
そのときのまわりの環境の中で、より暮らしやすい形質を持っている
(「適応」している)と、その遺伝子を持った個体は、
ほかの個体より、生存競争にも残りやすくなります。
これによって、その個体は、子孫を残す可能性も高くなり、
新しい遺伝情報を持ったDNA分子を、子に伝えやすくなります。

こうして、突然変異を起こした遺伝子のうち、
その環境に適応したものが、とくに生存に有利となって、
子孫を残して生き延びることを、「自然選択」と言います。
進化とは、「突然変異」と「自然選択」の繰り返しで、
少しずつ生物の形質が、変化していくことだと言えるでしょう。


つきつめると生物進化とは、「突然変異」で生じた、
DNA分子の塩基配列のうち、たまたま環境に適応したものだけが、
「自然選択」で残っていくことだ、ということになります。
世代が下るごとに、その変化が積み重なって、長い時間ののちに、
最初とはまったく違った、複雑な造りの生物が現われるわけです。
いかめしく言えば、進化とは「DNA分子の塩基配列の時系列変化」です。

突然変異は、遺伝情報のミスコピーですから、
まったくのランダムで、とくに方向性がないものです。
自然選択を起こす環境は、地殻変動などで、
変化することがありますが、やはり偶発的なものです。
したがって、進化のプロセスにおいて、生物の側からの意志や努力は、
いっさい入りえないことを、ここではっきりおことわりしておきます。

一般に、生物種が安定に繁殖していると、その環境の中で、
もっとも適応した状態に近い形質を、持っていることが通常です。
したがって、ほとんどの突然変異は、生存競争に不利であり、
その遺伝情報は、子に伝わることなく、「淘汰」されてしまいます。

なんらかの理由で、環境が大きく変化したとき、
突然変異した個体の中に、生存に有利な形質があることがあり、
その遺伝情報を持つ個体が、とくに子孫を残しやすくなります。
新しく変化した環境に適応できる、突然変異種がいないと、
子孫を残せる個体がいないので、やがてすべての個体が淘汰され、
その生物種は絶滅することになるでしょう。


ご存知のように、おおむかしは生物種の数がすくなく、
時代が下るにしたがって、新しい生物が現われて、
(その中には子孫が死に絶えて、絶滅するものもありますが)
しだいに生物種の数が、増えていくことになります。
これは、進化によって、新しい生物種が現われるためですが、
新種誕生の原因として、大きくふたつのパターンが考えられます。

(1) ある地域に、ひとつの生物種Aが生活しているところへ、
地殻変動で、山や海ができたりして、ふたつの地域1と2にへだてられ、
あいだを行き来できなくなったとします。
生物種Aは、それぞれの地域で、新しい環境に適応していき、
地域1では生物種Bに、地域2では生物種Cという、たがいに交配できない
生物になったとすれば、種分化を起こしたと言えるでしょう。

(2) また、ある地域で暮らす生物種Aのうち、風に乗ったり、
流木に流されたりして、離れ島にたどりついたとします。
島の環境に適応して、子孫を残し続けられたとすると、
やがて、もとの地域の生物種Aはそのままで、
離れ島ではそれと異なる、生物種Dに進化することになるでしょう。

はじめのパターン(1)の場合、進化の系図を書くと、
下の図の左側のように、二またにわかれることになります。
(生物種Aは、生物種Bと生物種Cの「共通祖先」。)
あとのパターン(2)の場合、進化の系図を書くと、
下の図の右側のように、枝わかれのかたちになります。

  

野菜や果物、家畜や愛玩動物を、人間が利用するために、
都合のいいように、形質を意図的に変えていくことがあります。
生物の形質とは、遺伝子の塩基配列の反映ですから、
形質を変えるためには、DNA分子を操作すればよいことになります。
こうした人工的な遺伝子操作を、「遺伝子組み換え」と言います。

遺伝情報を持つ塩基配列の変化を、突然変異にまかせず、
人為変異させていると、言ってもいいでしょう。
本来の害虫や除草剤に、強い耐性を持つとうもろこしなどは、
このような遺伝子組み換えによって、誕生したものです。
この遺伝子組み換えは、いまのところ技術的に難しく、
かならずしも安全とはかぎらないところが難点でしょうか。


新しい生物種を作るのとは、主旨がちがいますが、
病気の中には、遺伝によるものがあるので、遺伝子操作によって、
病気を起こす遺伝子を、人工的に取り除く治療法があります。
生存に不利な形質は、通常は自然選択によって淘汰されるのですが、
それを人為的に淘汰させているとも、言えるかもしれないです。

理論的には、眼の色やはだの色、背の高さや血液型など、
遺伝するものは、なんでも好きなように操作できるはずです。
しかし、こうした目的で、遺伝子を操作することは、
倫理的に非常に問題であることは、言うまでもないでしょう。
それゆえ、現在の優生保護法では、病気の治療のときだけしか、
遺伝子操作を認めないようになっています。


新しい生物種を産み出す、リスクのない方法として、
たくさんの子孫を育てて、そのうち人間に都合のよい形質の個体が、
突然変異によって現われたら、それを取り分けて
特別に繁殖させるという、「品種改良」があります。
自然環境にまかせておくと、そうした形質は、
淘汰されることがたいていで、その遺伝子は子孫に残らないのですが、
人為的に保存することで、子孫が残ることになります。

遺伝子の正体がDNA分子であると、わからなかった時代や、
あるいはわかってからでも、DNA分子を操作するなど思いもよらないころは、
もっぱら品種改良によって、新しい種を作り出していました。

品種改良とは、自然選択にまかされるところを、
人間が遺伝子を、人為選択していると言っていいでしょう。
もともと熱帯産だった稲が、東北や北海道のような、
寒冷地でも育つような生物種になったのは、
こうした品種改良の積み重ねであることは、ご存知だと思います。

参考文献、資料

このページは教科書的なお話で、たいくつかもしれないですが、
つぎへ進む足掛かりなので、どうかご容赦くださいね。
進化のメカニズムについて、よくわからないというかたは、
入門的な進化生物学の本を、ご覧いただけたらと思います。
ウェブで読めるものとして、たとえば、つぎのサイトがあります。

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