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林道義氏の進化論(3) 進化のメカニズム たいくつなお話 [1] [2] [3] [4] [5] |
「遺伝」のメカニズムは、前にお話したように、 遺伝情報を持った、DNA分子の親から子への継承でした。 それでは「進化」は、どうやって起きるのでしょうか? (そんなことは、わかっているからもういい、とおっしゃるかたは、 このページは飛ばして、さっさとつぎにいきましょう。) ご存知のように、生物が何世代も下るうちに、 べつの生物種へと変化していくのが生物進化です。 ところが単に、子孫にDNA分子が伝わっていくだけなら、 形質が変化しないので、生物種としても変化しないはずです。 DNA分子は、とても長い分子(高分子)であり、複製のとき、 遺伝情報を表わす、4種類の核酸塩基の並びかたが、正確に写されず、 いくらかの割合で、ミスコピーされることがあります。 これによって、遺伝情報の一部が、変化することになり、 親と違った形質を持つ子が、現われることになります。 このように、子の形質が変化することを、「突然変異」と言います。 これは、遺伝情報(核酸塩基の配列)のミスコピーですから、 まったくの偶然で起きることは、わかると思います。 突然変異で生じた、新しい遺伝子を持つ個体が、 そのときのまわりの環境の中で、より暮らしやすい形質を持っている (「適応」している)と、その遺伝子を持った個体は、 ほかの個体より、生存競争にも残りやすくなります。 これによって、その個体は、子孫を残す可能性も高くなり、 新しい遺伝情報を持ったDNA分子を、子に伝えやすくなります。 こうして、突然変異を起こした遺伝子のうち、 その環境に適応したものが、とくに生存に有利となって、 子孫を残して生き延びることを、「自然選択」と言います。 進化とは、「突然変異」と「自然選択」の繰り返しで、 少しずつ生物の形質が、変化していくことだと言えるでしょう。 つきつめると生物進化とは、「突然変異」で生じた、 DNA分子の塩基配列のうち、たまたま環境に適応したものだけが、 「自然選択」で残っていくことだ、ということになります。 世代が下るごとに、その変化が積み重なって、長い時間ののちに、 最初とはまったく違った、複雑な造りの生物が現われるわけです。 いかめしく言えば、進化とは「DNA分子の塩基配列の時系列変化」です。 突然変異は、遺伝情報のミスコピーですから、 まったくのランダムで、とくに方向性がないものです。 自然選択を起こす環境は、地殻変動などで、 変化することがありますが、やはり偶発的なものです。 したがって、進化のプロセスにおいて、生物の側からの意志や努力は、 いっさい入りえないことを、ここではっきりおことわりしておきます。 |
一般に、生物種が安定に繁殖していると、その環境の中で、 もっとも適応した状態に近い形質を、持っていることが通常です。 したがって、ほとんどの突然変異は、生存競争に不利であり、 その遺伝情報は、子に伝わることなく、「淘汰」されてしまいます。 なんらかの理由で、環境が大きく変化したとき、 突然変異した個体の中に、生存に有利な形質があることがあり、 その遺伝情報を持つ個体が、とくに子孫を残しやすくなります。 新しく変化した環境に適応できる、突然変異種がいないと、 子孫を残せる個体がいないので、やがてすべての個体が淘汰され、 その生物種は絶滅することになるでしょう。 ご存知のように、おおむかしは生物種の数がすくなく、 時代が下るにしたがって、新しい生物が現われて、 (その中には子孫が死に絶えて、絶滅するものもありますが) しだいに生物種の数が、増えていくことになります。 これは、進化によって、新しい生物種が現われるためですが、 新種誕生の原因として、大きくふたつのパターンが考えられます。 (1) ある地域に、ひとつの生物種Aが生活しているところへ、 地殻変動で、山や海ができたりして、ふたつの地域1と2にへだてられ、 あいだを行き来できなくなったとします。 生物種Aは、それぞれの地域で、新しい環境に適応していき、 地域1では生物種Bに、地域2では生物種Cという、たがいに交配できない 生物になったとすれば、種分化を起こしたと言えるでしょう。 (2) また、ある地域で暮らす生物種Aのうち、風に乗ったり、 流木に流されたりして、離れ島にたどりついたとします。 島の環境に適応して、子孫を残し続けられたとすると、 やがて、もとの地域の生物種Aはそのままで、 離れ島ではそれと異なる、生物種Dに進化することになるでしょう。 はじめのパターン(1)の場合、進化の系図を書くと、 下の図の左側のように、二またにわかれることになります。 (生物種Aは、生物種Bと生物種Cの「共通祖先」。) あとのパターン(2)の場合、進化の系図を書くと、 下の図の右側のように、枝わかれのかたちになります。 |
野菜や果物、家畜や愛玩動物を、人間が利用するために、 都合のいいように、形質を意図的に変えていくことがあります。 生物の形質とは、遺伝子の塩基配列の反映ですから、 形質を変えるためには、DNA分子を操作すればよいことになります。 こうした人工的な遺伝子操作を、「遺伝子組み換え」と言います。 遺伝情報を持つ塩基配列の変化を、突然変異にまかせず、 人為変異させていると、言ってもいいでしょう。 本来の害虫や除草剤に、強い耐性を持つとうもろこしなどは、 このような遺伝子組み換えによって、誕生したものです。 この遺伝子組み換えは、いまのところ技術的に難しく、 かならずしも安全とはかぎらないところが難点でしょうか。 新しい生物種を作るのとは、主旨がちがいますが、 病気の中には、遺伝によるものがあるので、遺伝子操作によって、 病気を起こす遺伝子を、人工的に取り除く治療法があります。 生存に不利な形質は、通常は自然選択によって淘汰されるのですが、 それを人為的に淘汰させているとも、言えるかもしれないです。 理論的には、眼の色やはだの色、背の高さや血液型など、 遺伝するものは、なんでも好きなように操作できるはずです。 しかし、こうした目的で、遺伝子を操作することは、 倫理的に非常に問題であることは、言うまでもないでしょう。 それゆえ、現在の優生保護法では、病気の治療のときだけしか、 遺伝子操作を認めないようになっています。 新しい生物種を産み出す、リスクのない方法として、 たくさんの子孫を育てて、そのうち人間に都合のよい形質の個体が、 突然変異によって現われたら、それを取り分けて 特別に繁殖させるという、「品種改良」があります。 自然環境にまかせておくと、そうした形質は、 淘汰されることがたいていで、その遺伝子は子孫に残らないのですが、 人為的に保存することで、子孫が残ることになります。 遺伝子の正体がDNA分子であると、わからなかった時代や、 あるいはわかってからでも、DNA分子を操作するなど思いもよらないころは、 もっぱら品種改良によって、新しい種を作り出していました。 品種改良とは、自然選択にまかされるところを、 人間が遺伝子を、人為選択していると言っていいでしょう。 もともと熱帯産だった稲が、東北や北海道のような、 寒冷地でも育つような生物種になったのは、 こうした品種改良の積み重ねであることは、ご存知だと思います。 |
参考文献、資料 このページは教科書的なお話で、たいくつかもしれないですが、 つぎへ進む足掛かりなので、どうかご容赦くださいね。 進化のメカニズムについて、よくわからないというかたは、 入門的な進化生物学の本を、ご覧いただけたらと思います。 ウェブで読めるものとして、たとえば、つぎのサイトがあります。
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