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TBSの731部隊特集(3)
サブリミナル効果はあるか?
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「報道のありかたの会」が作ったびらのまんがですが、
虚構であることを除いても、奇妙なストーリーだと思います。
前にも触れましたが、最後のこまで、番組を見た女性が、
深刻な顔つきで、安倍さんのイメージが変わったと言っています。
そして、左隣のスペースで、「印象操作」によって、
「安倍氏のイメージダウンに成功」したなどと、書いてもいます。

どんな技工をこらしたトリッキーな動画でも、
ただ見せるだけで、人の考えや印象をがらりと変えるなど無理でしょう。
TBSの「731部隊特集」は、なにやら超自然的な、
魔法の力でもこめられている、特別な動画みたいですね。




「魔法」の正体は、『ZAKZAK』の7月26日の記事に、ヒントがあるようです。
放送評論家の志賀信夫氏が、「サブリミナル効果」と言っているのです。
http://www.zakzak.co.jp/gei/2006_07/g2006072605.html
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この映像を見た放送評論家の志賀信夫氏は、安倍氏の顔写真が映った瞬間、
「サブリミナルっぽい。この場面では全く関係ないからね」と話した。
志賀氏は「ボーっと見ていて、全く意識しないところで
目に飛び込んでくるから『サブリミナル的』といっていい。
(視聴者に)無意識に働きかける可能性はある」と指摘する。
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志賀信夫氏は、「無意識に働きかける」と言っています。
「報道のありかたの会」のまんがのように、
映像を見ただけで、安倍のイメージが変わってしまうのは、
きっと「サブリミナル効果」のことにちがいないでしょう。

ところで、サブリミナル効果とは、存在することも、
内容も知覚できないかたちで、映像や音声を入れることで、
観た(聴いた)人の、意識下の知覚が刺激されて、
なにか効果があらわれるというものです。
映像であれば、数分おきに1こま画像を入れるとか、
音声であれば、聞こえない周波数の音で録音する、
といったような方法を使います。

「731部隊特集」の動画は、写真パネルがあることが
はっきりわかり、人間にはわからないように、
数こまおきに挿入されている、というわけではないです。
したがってこれは、サブリミナル効果とは言わないものです。
志賀信夫氏は、このあたり、よくわかっていないのかもしれないです。

しかし、もっと深刻なことは、サブリミナル効果自体が、
根拠がなく、どうやっても検出されないものである、ということです。
意識下の知覚、潜在意識というものはありますが、
サブリミナル効果という方法で、それに作用を
およぼすことはできないとされています。

ことの発端は1957年、ニュージャージーの映画館です。
「コーラを飲もう」とか、「ポップコーン」を食べよう、
というメッセージの入ったこまを、映画のフィルムの中に、
5分おきに入れておいたのだそうです。
そうすると、映画を観た人が、コーラやポップコーンを
本当に買いたくなって、売り上げが伸びたのだそうです。

メッセージは、映画を観ている人には、見えないのですが、
潜在意識に働きかけるので、コーラが飲みたくなったり、
ポップコーンを食べたくなったりするのだそうです。
こんなやりかたで、購買意欲を操ろうとしたということで、
この事件は、大衆の怒りを買うことになりました。


ところが、これを行なった、マーケティング業者の、
ジェームズ・ヴィカリー氏は、アメリカ広告調査機構の、
要求があったにもかかわらず、くわしい状況を明かさず、
論文などのかたちで成果の報告も、ぜんぜんしませんでした。

このほかに、心理学者が「コーラを飲もう」という、
2.7ミリ秒間のメッセージを、15分で40回与えるという条件で、
サブリミナル効果が検出できるか、実験したことがありました。
そして被験者に、のどがかわいたかどうか尋ねるのですが、
統計的に有意な結果は、見られなかったのでした。(注1)

1962年、ついにヴィカリー氏は、広告雑誌のインタビューで、
これはお客さんを増やそうとした作り話であり、
実験データもないと答えて、収拾がついたかたちになりました。
いかにも広告屋さんの考えそうなことだと、
言ってしまえば、それまでかもしれないです。

もうひとつ有名な事件で、1982年に、ロック音楽には、
悪魔のメッセージが逆まわしに、潜在意識レベルで吹き込まれていて、
これを聴いた若者たちは堕落するという、抗議がありました。
ロックのレコードには、警告ラベルを必ず貼る法案が、
アーカンソー州の議会で、可決する事態にまで発展しました。
(アーカンソーの州知事は、法案に署名しなかった。)

なんでも、ロックのレコードを、逆まわしにすると、
くだんのメッセージが、はっきり聞こえるというのだそうです。
それでためしてみる人は、たくさんいたのですが、
だれにも聞き取れた人はいなかったのでした。

これをご覧のあなたは、潜在意識と言わず、
はっきり聞こえるふつうの会話を、逆まわしにして、
どんな内容のことをしゃべっているか、判別できるのかと、
お思いになるかたも、いらっしゃるでしょう。

そういう実験を行なったかたたちは、もちろんいたのでした。
ところが、何語をしゃべっているかくらいは、
どうにか当てられるようですが、お話している内容までは、
偶然以上の確率では、当てられないのでした。
ふつうに聞こえる会話で、逆回しではわからないとあっては、
意識下に刺激しても、とても意味を識別することは無理でしょうね。


ほかにも、サブリミナル効果を利用した、聴くだけで、
記憶力が高くなるという、テープが売られたりしていますが、
これも、有意な効果がないことが、実験でわかっています。
また、アメリカ軍が兵士の強化に、サブリミナル効果を、
利用したことがありましたが、これも失敗に終わりました。

広告のデザインには、性的な絵柄が隠されているとか、
建物のデザインには、洗脳的メッセージがこめられている、なんて、
陰謀論というか、妄想じみたものもあったりします。
これらも「雲を眺めて人の顔を見つける」程度のことにすぎないです。

サブリミナル効果は、これまでにも、たくさんの実験が
なされてきましたが、検出できないことがわかっています。
そうした映像(音声)が、実際に埋め込まれていたところで、
人間には見えない(聴こえない)ので、
意識的であろうと、潜在意識であろうと、感じ取れなくて、
脳は処理のしようがない、ということのようです。

サブリミナル効果の悪用で、購買意欲や、政治思想に、
影響を与えうるのではと危惧する人たちは、後を絶たないようです。
こうした潜在意識の「技術」は、じつは役に立たないですので、
これをご覧のあなたは、ご安心なさってだいじょうぶですよ。

参考文献、資料
  • 大豆生田利章 (おおまめうだ としあき) のページ
    ネットワーク上の著作物>疑似科学に関するメモ
    サブリミナル効果
  • (注1)
    この実験は、はじめ統計的に有意な結果が出たと思われ、
    その論文が信じこまれたようです。
    ところが、統計上の扱いや解釈に、あやまりがあることがわかり、
    結局、のどがかわくのは、偶然の範疇だとわかったのでした。
    くわしくは、上でご紹介した本、『ハインズ博士「超科学」をきる』の、
    395-396ページをご覧ください。

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