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ひのえうま伝説

「ひのえうま産まれの女の人は、気性が強く、夫を殺すことがある」
とてもこころない言説ですが、これをご覧のあなたも、
おそらく一度は、聞いたことがあるであろう、ひのえうま伝説です。

男の人を殺すとまでは、信じていなかったにしても、
この年産まれの女の人は、きっと男勝りで好ましくない、
くらいに思った人は、たくさんいたようです。
1966年のひのえうまは、出生率が前後の年と比べて、
27%も下がるという、集団妄想(集団ヒステリー)が起きました。

人口統計を見ると、女児だけでなく、男女とも同じ割合で
出生率が下がっていたことがわかります。
これは、男女の産みわけもできないし、
産まれる前に、胎児の性別を知る技術もなかったので、
女児を産みたくなければ、出産自体を控えるしかなかったからです。


伝説の発端は、江戸時代、八百屋お七の放火事件です。
1681年、火災の避難場所で出逢った男性と恋に落ちた、
八百屋の娘お七は、ふたたび会いたければ、また火事になればよいと、
火事場泥棒にそそのかされて、放火してしまいます。
お七はこのとき16歳で、1666年産まれのひのえうま、
それで、ひのえうまの女性は、気性が激しいとなったのでしょう。

井原西鶴が、浮世草子『好色五人女』に、これを描いてから、
江戸の町人たちのあいだに、知られるようになりました。
そのあと、浄瑠璃や歌舞伎などで作品化されて、
お七の話が浸透するようになり、そのあいだに
「ひのえうまの女は夫を殺す」と伝説が発展していきました。

こうした伝説の例にもれず、諸説ありまして、
八百屋お七は、じつはひのえうまではない、とも言われています。
占いのほうで、「ひのえ」も「うま」も、火行に属しているので、
「ひのえうまの年には火災が多い」というジョークが、
江戸の町人たちのあいだにあったのでした。
おそらく、これと放火事件が結びついて、「お七はひのえうま産まれ」
ということになったのだ、とも考えられています。

これをご覧のあなたは、1966年でも、こんな伝説を気にして、
27%も出生率が下がるのだから、もうひとつ前のひのえうまは、
もっと出生率が下がっていただろうと、思うかもしれないです。
ところが、意外なことに、1906年のひのえうまは、
10%程度しか出生率が下がっていないのでした。
http://homepage3.nifty.com/yoiidea/tyonoryoku/hinoeuma.htm

しかも地域差が大きくて、東京とその周辺の県では、
20%くらい低下しているのに、関西をはじめ、
ほかの地域はずっと少なくなっています。

東京神奈川大阪島根
190426.229.428.325.0
190527.230.226.825.0
190622.724.627.425.4
190729.732.230.627.8
190827.930.130.928.9
東京神奈川大阪島根
196419.420.720.614.4
196520.722.022.114.4
196616.116.816.310.7
196721.323.523.215.1
196820.422.522.713.9
浄瑠璃は、もともと江戸の町人文化ですし、ひのえうま伝説も、 東京(江戸)ローカルだったのだと思います。 明治時代には、東京周辺の人しか知らなかった伝説だったのでしょう。 ところが、マスメディアが普及することにより、 1966年には、全国規模で知られるようになったのだと思います。 「ひのえうま」は、古くからの言い伝えのような印象ですが、 じつはメディアが普及して、社会全体が都市化したがための伝説、 すなわち「都市伝説」と言ってよさそうです。 すくなくとも、現代人は、むかしの人のように迷信深くない、 ということなどないのは、たしかなようです。

それから、わたしが興味を惹いたのが、つぎのウェブログの
エントリにある、婚外子(非嫡出子)の出生率です。
「嫡出でない子の出生率」
嫡出でない子の出生数及び割合



「婚外子」とは、法律婚(婚姻届けをお役所に出す、
日本で「ふつう」とされている結婚)をしていない
男女から産まれた、子どものことです。
もともとは、男性が自分の妻以外の女性との
不倫で作った「私生児」を指しました。
いまでは、夫婦別姓にするためなどの理由で、
婚姻届けを出さない事実婚夫婦の子どもが、多くなっています。

1966年を見ると、出生率全体の減りかたとくらべて、
婚外子の数は、さほど減っていないことがわかります。
そのため、相対的に割合が高くなり、グラフが飛び上がっています。
つまり、婚外子を産んだ人たちは、ひのえうま伝説に、
こだわらない人たちが、一般より多かったことになります。

おそらく、因襲や迷信にとらわれず、合理的で理性的な
判断ができることが、根拠のない言説を信じないことと、
婚外子を取り巻く社会通念にこだわらないことの、
両方に現われて、こうなったのだと考えられます。

こんどのひのえうまは、2026年ですが、
このときも伝説が健在で、出生数が激減するでしょうか?
それとも、このような伝説は忘れられて、
出生数はめだった影響を受けないでしょうか?

伝説がまだ信じられているなら、男女の産みわけができると
されている技術が、その年だけはやるかもしれないです。
(現在知られている「技術」は、気休め程度の影響しか
なかったりして、はっきりとした根拠はないようですが。)


とつぜんですが、韓国では、儒教思想の影響で、
男児が尊重されるため、産まれてくる子が女児だとわかると、
堕胎することがあることが、問題になっています。

小学校の子どもの男女比が132:83と、
アンバランスになっていて、将来の韓国の男性は、
国際結婚を余儀無くされるとも言われています。
韓国の市民団体は、英文の絵はがきを作るなどして、
世界的にうったえたりもしているのでした。

わたしが、いささか気がかりなのは、
1966年とちがって、いまは胎児の性別がわかりますから、
2026年のひのえうまだけ、いまの韓国で起きていること
みたいになるかもしれない、ということです。

現在の日本では、通常はそんなことはないので、
たいていの産婦人科では、サービスのひとつとして、
産まれてくる子の性別を、教えることが多いようです。
ただし、遺伝学検査のガイドラインは、
胎児のうちから、性別を教えてはならないとしています。
ひのえうま伝説のように、倫理的に差し支えるときは、
このガイドラインは、厳格に適用されるかもしれないです。

参考文献、資料

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