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「入籍」と「ばついち」

これをご覧のかたには、言わずもがなでしょうが、
「入籍」は結婚すること、「ばついち」は離婚歴1回をあらわす、
現代の日本で使われている俗的な表現です。

結婚や離婚によって、日本独特の身分登録制度である
戸籍が移動するので、それをイメージしたことばです。
「入籍」は読んで字のごとく、籍に入ることですし、
「ばつ」は、離婚して籍から抜けるときに、
もとにあった自分の名前につけられる、「ばつ」を指しています。

離婚歴のことを、「ばつ」というようになったのは、
離婚に対する抵抗の減ってきた、わりあい最近のことです。
結婚の意味での「入籍」は、もっと前から使われていたようです。
(芸能人の結婚の際、週刊誌が使ったのがはじまりと、
聞いていますが、くわしいことはわからないです。
どなたか、教えていただけたらと思います。)

プライベートなことは、できれば遠回しに言いたいという
気持ちが働くものですが、「入籍」「ばついち」は、
短くて直接的でない表現で、言いたいことを、
きっちり言い表せるので、定着しているのだろうと思います。
そういう意味では、最近はやり(?)の、
「勝ち犬」「負け犬」と、おなじようなものと言えそうです。


ところが、「入籍」と「ばついち」は、実際の戸籍の移動とは、
かならずしも同じでないので、ややこしくなります。
婚姻届けを出すと、男女の両方がまだ親の戸籍にいるときは、
夫婦のための新しい戸籍が作られます(苗字が選ばれたほうが筆頭者)。
そしてもとの親の戸籍からは、ふたりとも抜けることになります。

「入籍」と言うので、結婚すると、すでにある戸籍に入るみたいですが、
そうではなく、「作籍」とか「創籍」とでも言ったほうが、
実際の戸籍の移動に近くなります。

じつは、「婚姻」とはべつの、「入籍」という手続きもあって、
離婚のあとなどで、もとの配偶者の籍にいた子どもを、
自分の籍に入れるときに使われるものです。
役所へ行ったとき、「婚姻」のつもりで、「入籍」と言うと、
窓口のかたが、誤解することも考えられるので、
注意したほうがいいかもしれないです。


「ばついち」の「ばつ」も、もともとは離婚ではなく、
「除籍」をあらわしています。
したがって離婚だけでなく、どんな移動でも戸籍から抜ければ、
自分の名前に「ばつ」がつくことになります。
上でお話したように、結婚して親の戸籍から抜けたときでも、
親の籍にあった自分の名前には、「ばつ」がついています。

離婚によって、戸籍から抜けるのは、筆頭者でないほうだけです。
戸籍筆頭者だったほうは、どこの戸籍からも抜けないので、
自分の名前に「ばつ」は、つかないことになります。

男性は結婚のとき、自分の苗字が選ばれて、
戸籍の筆頭者になっていることが、多いと思います。
そうした男性は、離婚しても「ばつ」はつかないのですが、
なぜか離婚歴1回の意味で、「ばついち」と言う人もいるようです。
「ばつ」ということばの意味が、日常会話的には、
除籍から離婚へと、すっかりシフトしたと言えるでしょう。


こうなると、なぜかくも、不正確な言い回しが、
定着したのかと思うところですが、わたしにもわからないです。
なんとか言えそうなのは、「入籍」も「ばついち」も、
どちらも「女性の視点」である、ということだと思います。

日本の多くの結婚では、男性の苗字が選ばれますから、
夫が筆頭者の戸籍の中に、妻がいることになり、
ここだけ見ていると、「入籍」したとも言えるでしょう。
(そうではなく、明治民法の影響も考えられますが。)
また婚氏は、男性の苗字が選ばれているでしょうから、
女性は離婚したとき、夫の戸籍から除籍となって、
たしかに「ばつ」がついていることになります。

そうなるとつぎは、なぜこんなところで、
「女性の視点」になるのか、という疑問が出てきます。
女性のほうが、結婚や離婚に、関心を持ちやすいからでしょうか?
それとも、手続き上のことでも、結婚や離婚にともなう変化が、
男性は少なく、女性のほうが多いからなのでしょうか?

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