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家族思想信仰の「経典」

「家族思想信仰」には、大きくふたつの「経典」があると思います。
ひとつは戦後定められた新民法や新戸籍法です。
「信仰」が定める「あるべき家族のかたち」を法律で
明文的に規定したと言えます。

もうひとつは「夫が働き妻が専業主婦で子どもは
ふたりがよい」という、「標準家族」という思想です。
これは1955年の『日本繁栄への道』という本に始まります。
この思想を国策で国民全体に普及させていきました。

民法と戸籍法
ひとつ目の「経典」である戦後の民法や戸籍法は、
戦後改革の中で新しく定められたものです。
最大の特徴は戦前の民法にあった「イエ制度」の廃止だと思います。

新民法の制定に当たった彼らも、新しい時代の担い手であり、
「イエ制度」による親世代とのしがらみをなくしたかったのでしょう。
それで自分たち夫婦と子どもたちだけの「核家族」が、
「家族」のありかたとして主流になるようにしました。
戦前は3世代入っていた戸籍が、戦後は様式が改められ
2世代となったのも、そのためだろうと思います。

「婚姻届けを出した結婚が正当」という「法律婚主義」を徹底させたのも、
家族思想信仰を定着させるためであったとも言えます。
民法によって結婚のありかたを規定した上で法律婚を推進することで、
「信仰」に沿った結婚に従う人(=教徒)を増やすということです。


彼らはすべてにおいて自由と平等を重視はしませんでした。
新民法は男性の名字を名乗る夫婦同姓でなくてはならなかったのでした。
新民法を作ろうとした彼らも男性であり、
妻に自分の名字を名乗らせるという「イエ制度」時代の
既得権を手放せなかったものと思います。

結婚にともなう名字に関する規定は表面的には男女平等ですが、
戦前の民法によって作られていた社会通念を利用して、
「女性が改姓して夫婦同姓でなければならない」
という「教義」を作ることができたのでした。


「法律婚主義」を徹底させたので、「結婚した男女でなければ
子どもを持ってはならない」という「教義」ができることになりました。
これは「できちゃった婚」という日本独特の社会通念に現れることになります。

さらにこれを強化したものが、「結婚前には性的なものと
いっさい関わってはならない」という「純潔思想」と言えます。
「純潔思想」の信者たちは、彼らの教義のもと学校教育から
性教育を徹底的に抹殺しようとすることになります。

またこれによって婚外子が差別的に扱われることになり、
「婚外子の法定相続分は嫡出子の半分」という
相続に関する規定で示されることになりました。
婚外子に対する忌避的意識は、欧米の民主主義国と比べて
異様に少ない婚外子の割合に現れることになります。

「世界各国の婚外子割合」

標準家族思想
もうひとつの「経典」は「標準家族」「標準世帯」思想です。
これは具体的には「夫が働き妻が専業主婦で
子どもはふたりがよい」という家族のありかたを規定します。
ちょうど「55年体制」最初の年の1955年に、労使協力研究会が編集した
『日本繁栄への道』という「原典」と言える著作もあります。

「標準家族」という思想は、企業の利益のために、
被雇用者がいかに効率よく会社での仕事に
専念できるようにするかを考えて、提唱されたものです。
戦後の復興の時代、従業員を会社に集中させることが、
生産性の向上に必要不可欠と信じられたことによります。


「標準家族」のひとつ目の要素は「妻が専業主婦」です。
家の家事を女性に任せきりにすることで、男性の従業員が
会社での仕事に専念できるようにするためです。
男性従業員が家での家事労働に時間と労力を使うと、
会社での仕事に専念させるのに非効率と考えたことは、
言うまでもないだろうと思います。

ふたつ目の要素は「子どもはふたりがいい」です。
子どもがたくさんいると、男性の従業員が
家に帰ってきたときやかましくて休めず疲れが取れないが、
ふたりくらいなら静かでいいと考えたことによります。

それまでは富国強兵策のための戦時人口政策の影響で、
子どもが5人くらいの家庭が相場だったのでした。
それゆえ「標準家族」の「布教」のために
子どもの数を減らす「産児調節」に乗り出すことになります。
たとえばつぎのような漫画を作って、子だくさんの不利と、
子どもがふたりしかいない優位さを説いたのでした。

図表1-1 日本鋼管が1953年頃、全社員の月給袋に入れて配った漫画(朝日新聞1995年3月2日付より)

「子どもがふたりなら静か」なんて根拠のないことで、
ふたりでもじゅうぶんやかましいと思います。
この「根拠」のないことが、高度経済成長期にはなぜか信じられ、
出生率は急速に2に近くなっていきました。

「合計特殊出生率の推移(日本及び諸外国)」


「標準家族」を推進するために、企業は男性被雇用者の
配偶者や子どもにも手当てを出すという、
他国にほとんど例を見ない賃金体系を導入しました。
かかる経済的インセンティブも「布教」に役立ったと言えます。

「標準家族」なんてそれまでの日本社会には、
ぜんぜん顕在化したことがなかったものです。
それに「標準」と名付ける時点で、かかる「家族のありかた」を
広めたかった人の家族イデオロギーがうかがえます。

参考資料
  • 『<非婚>のすすめ』 講談社現代新書 森永卓郎著
    25-31ページに企業利益のために「標準家族」を普及させた経緯が出ています。

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