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フィクションに見る家族思想信仰(2)

同性愛者のいない世界

日本人の家族観や結婚観が「家族思想信仰」の影響を
受けていることが、よく現れているフィクションはまだあります。
任天堂の『トモダチコレクション』というゲームがそうでした。

キャラクタが仮想世界で生活をするゲームで、
モチーフは人間関係にあり、恋愛や結婚もできるようになっています。
ところがこのゲームは同性愛者の設定がなく、
同性結婚ができないようになっているのでした。
英語版をリリースする際、同性結婚ができないことに対して、
外国のユーザから抗議が多数来ることになります。

「“任天堂、同性婚機能を削除!?” 
『トモダチコレクション』米国版めぐり物議 言葉の壁が生んだ誤解広がる」


『トモダチコレクション』はもともと同性結婚の機能は
なかったのですが(存在していた同性結婚の機能を
削除したのではない)、次のふたつの事情で同性結婚できると
外国ユーザから誤解されることになります。

ひとつは、男性と男性のような外観の女性が結婚しているシーンを
日本のユーザがスクリーンショットに撮ってネットに投稿をしたことです。
投稿者は日本語で説明を付けてはいましたが、
おそらく日本語が読めない外国人が動画だけ見て、
同性結婚ができると誤解したのだろうと思います。

もうひとつは旧バージョンからデータをインポートする際、
バグでキャラクターグラフィックが入れ替わってしまい、
見かけ上同性結婚しているようになる、というものです。
これはセーブとコンティニューができなくなる致命的なバグなので、
任天堂はこのバグを修正することになります。

かくして同性結婚ができるというのは事実誤認であり、
同性結婚の機能はないとわかったため、同性結婚もできるよう
その機能を実装しろという要望が強まることになったのでした。

「任天堂ゲームに不満の声、同性婚の設定なく 米」

米アリゾナ州の男性タイ・マリーニさん(23)は先月、 ソーシャルメディアを通じて任天堂に改善を求める 「♯Miiquality」の運動を立ち上げた。 実生活での婚約者は男性なのに、 ゲームの中では女性としか恋愛できないことに不満を持ったという。
任天堂の最初の対応はそっけなく、同性結婚の機能を サポートさせるつもりはぜんぜんない、というものでした。 ところが批判は高まり続け、ついに対処せざるをえなくなったもののようです。 任天堂は同性結婚できないことを公式に謝罪することになりました。 そして今回はもう無理だが、今後同じようなゲームを作るときには、 同性愛者の存在も配慮する約束することで、収拾を付けたのでした。 「同性婚、ゲーム続編では可能に=任天堂米法人が謝罪」 とくに同性愛者にとっては(異性愛者でも同性愛者の存在を 認識していれば)フィクションの世界で異性愛者しかいないのは、 リアリティがなく、不自然としか言いようがないでしょう。 なにより自分や知り合いの同性愛者が締め出されます。 同性愛者はつねづね差別や偏見にさらされているのですし、 こうした冷遇には敏感になって当然です。

任天堂が自社のゲームに同性結婚を入れなかったのは、
「家族思想信仰」に感化されたものだと考えられます。

「家族思想信仰」のもとでは、同性結婚のような「異教徒」は
存在を黙殺され、「信者」のあいだでは「いない」として扱われます。
任天堂の同性愛者に対する考えは、まさに「異教徒」を
「いないもの」としているということだからです。


任天堂の最初の釈明をみると「家族思想信仰」に
感化されていることに、無自覚でもあることがわかります。

「「任天堂は同性婚にNO」? ゲームの設定めぐり海外で波紋」

任天堂が社会的な見解を表現しようとする意図はありません。 異性婚しかないのは、現実世界を再現したものというよりかは、 ちょっと変わった、愉快なもうひとつの世界だからです。 我々はゲーム会社として、なにより重要であり、目指しているのは、 楽しんでもらえるゲームを創ることですから。 ゲームの中で、結婚したり、子供を作ったりという部分が 特徴的なのは確かですが、それだけではありません。 いろいろなことができるゲームですし、 その部分のみが取り上げられるのは、 ゲームの中身が理解されていないのかな、という印象です。 まだ海外では発売すらされていないので、 そういった報道になるのかもしれません。 すでに発売された日本で大きな問題になってはいませんし、 まずはゲームを楽しんでいただきたいと思います。
この釈明では、同性愛者を描かなければ 「社会的な見解を表現」していないと考えています。 現実には同性愛者がいるのですから、あえて同性愛者のいない 世界を描くのは「同性愛者は本来いないもの」という 社会的なメッセージを発することになります。 同性愛者のいない世界が「愉快なもうひとつの世界」であり、 「楽しんでもらえる」などと考えているのは、 任天堂が同性愛者を排除することを、ごく軽く考えているということです。 「ゲームの中身が理解されていないのかな、という印象です」にいたっては、 なにが問題なのかさえ、把握できていない感じです。 『トモダチコレクション』の作者も、 ご他聞にもれず「家族思想信仰」にもとづいた 「ふつうの家族」が多数派と思い込んでいるのでしょう。 しかも彼らにとって「信仰」が当たり前すぎて、 「信仰」にもとづいた家族だけ描くことを、 「政治的に中立」とさえ思っているということです。

任天堂の最初の釈明はきわめて「日本的」でもあると思います。
日本ならこのような釈明で、批判は抑え込まれると思います。
「日本で大きな問題になってはいません」と
任天堂みずから言っているくらいです。




任天堂の対応は、「家族思想信仰」が蔓延していて、
同性結婚が法的に認められず、同性愛者を度外視しても
なんら差し支えない「日本の常識」ならではであると言えます。
その感覚で、性的少数者の権利が主張され、一部の州とはいえ、
同性結婚が法的に認められる国へ来るとどうなるかを、
この騒動は示したことになるでしょう。




「家族思想信仰」は日本固有の家族イデオロギーですから
外国で通用しないのは、当たり前と言えます。
「家族思想信仰」の「信者」はそのローカル性がわからず、
世界中のどこでも共有されている家族イデオロギーだと
思い込んでいることを示したとも言えます。

付記

任天堂は過去にも異性愛者しかいない世界のゲームを作って
外国から抗議されたことがあります。
このとき批判されたことは、教訓にならなかったのかと思います。

「「『ファイアーエムブレム 覚醒』ではドラゴンもペガサスもOK、
でも同性婚はできない」海外から批判」

(はてなブックマーク)

参考資料

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