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子どもの苗字の扱い

民法改正法案を提出?(2) 夫婦別姓4部作(2) 子の苗字を統一?

選択制法案の場合、夫婦別姓(非改姓結婚)を選ぶと、
子どもの苗字を父母のどちらにするか、という問題が出て来ます。
このとき、つぎのふたつの案が考えられています。
法制審議会の案は(1)で、民主党などが、
野党時代に提出してきた案は(2)です。

(1) 複数の子どもの苗字は、父母のどちらかに統一する。

(2) 子どもの苗字は、出生ごとの届けで、
 父母のどちらでも選べて、きょうだいで統一させなくてよい。

わたしの見解を言わせれば、望ましいのは(2)です。
子どもの苗字の統一が強制されるのは、
多様な家族のありかたに逆行します。
国家が個人のライフスタイルにできるかぎり介入しない、
という観点からすれば、選択の幅が広い(2)となるでしょう。

苗字を統一させる案は、きょうだいどうしで
苗字が違うのは、おかしいとかかわいそうとかいう、
根拠のない偏見が、背景にあるものと思います。
きょうだいで苗字の異なる家族もあるのですが、
取り立てて問題は起きていないようですよ。


現在、事実婚夫婦で、子どもがふたり以上いる場合、
きょうだいで苗字が異なることがあります。
また、子連れどうしの再婚の場合、
子どもの苗字は、通常はそれぞれ異なっています。

こうした人たちが法律婚したとき、
子どもの苗字を統一しなければならないとすると、
改姓を強制される子どもが、出てくることになります。
自分より、連れている子どもの苗字を変えたくなくて、
非改姓結婚を望むかたもいますが、こうしたかたにとっては、
(1)の案では、解決にならないことになります。

また、おたがいに家名を残したい家の、ひとりっ子どうしで
結婚する場合、跡取りとなる子はふたり産んで、
それぞれに、異なる苗字をつける必要があります。
子どもの苗字を統一する案では、父方と母方の
両方の家名を存続させたいとき、差し支えることになります。


苗字を統一させる(1)案では、婚姻届けを出すときに、
子どもの苗字も届けさせるようになっています。
結婚したら子どもを産むことが、前提になっていて、
子どもを持たない(持てない)夫婦への配慮がないものとなります。
ここでも、個人のライフスタイルへの、
国家による介入が出てくることになります。

(2)案では、子どもが産まれるごとに、苗字を届けるので、
子どもがいないかぎり、苗字を届ける必要がなくなります。
したがって、こちらのほうが、家族のありまたについて
自由度を認めていることになります。

夫婦の双方が子連れのとき、子どもも改姓しない方法ですが、
子どもの苗字を統一させる法制審議会の(1)案であっても、
「ペーパー離再婚」でどうにか解決できるでしょう。
つぎにあるように、A太郎さんとB花子さんが結婚、
A太郎にはA次郎、B花子にはB裕太という子どもがいたとします。



婚姻届け離婚届けで、戸籍を移動するのは配偶者だけです。
配偶者の子どもはいっしょに移動せず、もとの戸籍にとどまります。
つまり、A太郎さんとB花子さんが結婚して、
夫婦別姓を選び、子どもの苗字を「A」としても、
裕太の苗字は「B」のままで、「親子別姓」になります。
(これは現行法でもそうで、B花子が改姓してA花子になっても、
裕太はもとの戸籍に残って、苗字はBのままです。)

これで、子どもはどちらも改姓せず、B裕太とA次郎は、
「苗字の異なるきょうだい」に、いちおうなることができます。
ところがこのままでは、B裕太はA太郎の「妻の子」というだけで、
A太郎とB裕太のあいだに、法的な親子関係はないです。
(同様に、A次郎もB花子の「夫の子」で、法的な親子ではない。)
親どうしが結婚しても、配偶者の子との法的な親子関係は、
自動的に生じないようになっています。

これは不便なことが多いので、A太郎とB裕太も
法的な親子になるために、「養子縁組み」をするのが一般的です。
ところが、養子縁組みの手続きでは、養親が別姓のとき、
養子の苗字は、子どもの苗字として選んだものになります。
B裕太はA太郎の養子になると、改姓してA裕太になります。


B裕太が改姓しないためには、どうしたらよいかですが、
はじめに、A太郎とB花子が、婚姻届けを出したあと、
B花子とA次郎が養子縁組みをして、法的な親子関係になります。
子どもの苗字は「A」を選んでいるので、A次郎は改姓をせず、
B花子と「親子別姓」の状態で、養子縁組みができます。

このあとA太郎とB花子は、「ペーパー離婚」をします。
養子縁組みの関係は、「養子離縁」の手続きをしないかぎり、
なにがあっても(養親、養子のどちらかが死んでも)解消されません。
よって、B花子とA次郎の法的な親子関係は、離婚後もそのままです。
そしてふたたび婚姻届けを出し、今度は子どもの苗字を「B」にします。
A太郎とB裕太が養子縁組をすれば、すべての手続きが完了です。

このときおなじ戸籍にいるのは、A太郎、B花子、B裕太で、
A次郎だけべつの戸籍(A太郎のもといた戸籍)に入っています。
それでも、A次郎とB花子の養子縁組みは解消されないですから、
A太郎とB花子は、それぞれの配偶者の連れていた子と、
法的な親子関係を持つことになります。


結局、実質1回の結婚なのに、婚姻届け2回に離婚届け1回と、
全部で3回の手続きが必要になります。
婚姻届けと離婚届けは、おなじ日に出せないですから、
最短でも3日かかることになります。
お役所に「通う」気持ちでやる必要がありそうです。

ペーパー離再婚を使えば、法制審議会の(1)案でも、
子どもの苗字をわけることも、できないこともないです。
ところがこのように、かなり手の込んだことをしないと、
子どもの苗字が選べないですから、好ましいとは言えないでしょう。

参考文献、資料

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