年が明けて、2006年になりました。
小泉純一郎首相は、新年早々から、こんどは、
「女は犬のように子どもを産むべき」などと言ったのです。
06年の干支が犬年なので、それにちなんだのだそうです。

これは、年頭記者会見で、出て来た発言です。
首相官邸のサイトでも載せられていたもので、全文はつぎのようです。
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今年は、犬年でありますが、犬は子どもをたくさん産む、
そしてお産も軽いそうです。
犬にあやかるわけではありませんけれども、多くの方々が
子育ては楽しいぞと、子どもを持つことは人生を豊かにすると、
そのような環境整備に多くの皆さんの知恵を借りて
邁進していきたいと思っております。
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05年暮れの「明治時代」発言に、追い討ちをかけるようです。
自分のカイカクを批判されたいらだちが、まだ残っていたのでしょうか？
さらに本性をあらわしてくれた感じです。


出生率が下がった最大の原因は、多くの女性にとって、
子どもを持つと、それまでのお仕事を続けることが難しく、
「仕事か家庭か」の二者択一になってしまうからです。
いまの女性は、（これまでの男性と同様）、自己実現のために、
お仕事を取るほうが多いですから、出産が忌避されることになります。

現状を改善したければ、子どもを産むため、職場を離れた女性が、
もとの職場に復帰しやすい環境を作ることが、最低限のことでしょう。
コイズミは、少子化対策の戦略を訊かれても、
いつも「ない」と答えるようですから、こうしたことは考えていない
（すくなくとも失敗している）もののようです。

コイズミは、「子どもを持つことは人生を豊かにすると、
そのような環境整備に」などと言っています。
いったいどんな「環境整備」を、考えているのでしょうか？
女性たちに、自分を捨てて、子どものために生きることを、
「豊かな人生と思え」と、政治的な圧力をかけるのでしょうか？
「犬のように」発言が出るあたり、そんな気配が濃厚です。

この「犬のように産む」発言ですが、記者会見だというのですから、
きっと大勢の新聞記者たちが、聞いていたものだと思います。
ところが、日本のメディアは、どこも報道していないようなのです。
メディアで取り上げて批判する性質の、あからさまな、
差別発言だと思うのですが、どうやら無視黙殺を決め込んだようです。

ところが、外国のメディアは、これを記事にしているところがあります。
イギリスの新聞『タイムズ』は、06年1月5日に、つぎのように報じています。
「Women are told to have a litter in Year of Dog」
（「犬のように産めと言われた女性たち」）
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/asia/article785003.ece

英語を読むのは負担というかたは、こちらのエントリに、
日本語訳がありますので、ご覧になるといいでしょう。
「小泉首相の暴言？　失言？　女性は犬のように子どもを産むように」


『タイムズ』の記事は、上でお話したような、少子化の原因についても
簡単に述べられていますし、また、少子化対策のことを訊かれても、
コイズミが「ない」と答えることも、紹介されています。
これを書いた、レオ・ルイス氏は、東京に滞在とあるので、
小泉の「年頭記者会見」に出て、直接聴いたのだろうと思います。

一般に、ヨーロッパやアメリカの世論は、日本にくらべると、
政治家の差別発言に敏感で、そんなことがあると、
マスコミはこぞって、かかる政治家の批判を書きます。
そんな人物に、政治をやる資格はないという風土が、強いのでしょう。
（なにかというと差別発言をくり返す、石原慎太郎なんて、
とっくのむかしに、政治生命をなくしているところですよ。）

国内でなされた、日本の首相の発言が、なんで唐突に外国（だけ）で、
報じられるのかと、お思いのかたもいらっしゃると思いますが、
こうしたいきさつで、『タイムズ』の記者は、彼らの常識にもとづいて、
自分が見た政治家の差別発言を、記事にしたのだろうと思います。

日本では、このような潔癖さはないようで、メディアの中でさえ、
政治家の差別発言を、かばう論調が見られるくらいです。
それに加えて、コイズミカイカクに批判がおよぶことを
したくないのも、あるかもしれないです。
日本のマスコミも、こちらもまた彼らの常識にもとづいて、
コイズミの「犬のように」発言を、記事にしなかったのだろうと思います。

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