トップページ本館民法改正の基礎知識

民法改正法案の種類について

現在、日本で提案されている、民法改正法案(とくに別姓について)の
より具体的な内容について、お話したいと思います。

細かいちがいについては、ここではあまり触れないようにして、
アウトラインだけ、述べることにしたいと思います。
よりくわしくは、直接政党などに問い合わせるか、
ほかのウェブサイトをご覧ください。


選択制法案
1996年2月に法制審議会が出した、最初の法案です。
民主党など、野党が共同で提出する法案も、「選択制」です。

この法案は、婚姻届けを出すとき、別姓か、同姓か
(同姓なら、夫婦のどちらの苗字にするか)を、自由に選ぶことができます。
どちらの選択に対しても条件はないし、法律上も公平に扱われます。
結婚はふたりの意志だけにもとづくという憲法24条や、
法のもとの平等をとなえた憲法14条にも、矛盾なく合致します。

女子の再婚禁止期間については、100日に短縮されます。
(ただし、自民党案では、再婚禁止期間は現行法の180日のまま。)
しかし、親子鑑定(DNA鑑定、血液型鑑定)の技術により、
確実に父性の推定ができるようになっているので、
女子の待婚期間も廃止にするのが、より公平と言えるでしょう。


別姓を選んだときの、子どもの苗字は、出生ごとに届けます。
(子どもが産まれなければ、届ける必要はないです。)
また、夫婦どちらの姓でも、選ぶことができて、
すべての子どもの苗字を、どちらかに統一する必要もないです。
さらに、子どもが成人したとき、あらためて本人の意志で、
父母のどちらの苗字を名乗るか、決め直すこともできます。

これに対し、すべての子の苗字を同じにする、
という法案も、自民党から出されています。
これは、子どもの苗字が夫婦間で決まらずトラブルになる、
きょうだい間で苗字が異なるのはおかしい、などの、
反対派の主張を取りこんだためです。

この法案の場合、婚姻届けを出したときいっしょに、
子どもの苗字も決めることになっています。
(高齢のためなど、子どもを作らない予定でも、決めておくことになります。)
子どもの苗字を、きょうだいごとに変えたいときは、
「ペーパー離再婚」をするよりないでしょう。

例外制法案
「例外性法案」とは、同姓を原則とし、
別姓を文字どおり「例外」と見なす法案です。
具体的には、はじめに別姓を選んだときは、
あとから同姓に変更はできますが、同姓を選んだときは、
別姓への変更はできない、というかたちになっています。

はじめに、別姓、同姓のどちらを選ぶかは、とくに条件はないです。
同姓を選んだカップルが、あとから別姓にしたいときは、
「ペーパー離再婚」で変更することもできます。
憲法14条の「法のもとの平等」には、いくぶん抵触しますが、
24条の、「ふたりの意志のみ」には、ほとんど抵触しないので、
実質的には、選択制とたいして違いないとも言えるでしょう。

これは2002年4月ごろ、抵抗の強固な反対派の譲歩を引き出すために、
自民党の推進派グループが考え出したものです。
別姓が認められると、同姓の価値が損なわれる、などという、
反対派の言いぶんに配慮した、とも言えるでしょう。
2002年7月に「家裁認可案」を出すまでの、約3か月間だけ主張されました。

家裁認可制法案
「家裁認可制案」というのは、同姓を選ぶときは届け出だけですが、
別姓を選びたいときは、家裁(家庭裁判所)の認可が必要というものです。
別姓が認められるケースも、「職業生活上の事情」
「祖先の祭祀(さいし)の主宰」「その他」の3つとなっています。
(祖先の祭祀とは、いわゆる家名の存続のことです。)

この家裁の認可を必要とする法案のことを、
自民党の推進派グループは「例外制案」と呼んでいますが、
家裁認可を必要としない、2004年4月の「例外制案」と区別するため、
ここでは「家裁認可制案」と呼ぶことにします。

「家裁認可制案」でも、別姓は「例外」扱いとなっています。
したがって、別姓から同性への変更は、あとからでもできるが、
同性から別姓への変更はできないという、
「例外性案」にあった制限ももちろんあります。

この案が実現したとすると、家庭裁判所に足をはこぶことになります。
ほかの手続きからの類推ですが、裁判所の混みぐあいにもよりますが、
だいたい1ヶ月くらいで、期日が決まるようです。
そして、裁判官との面接があり、別氏の婚姻が認められるなら、
その場で言いわたされるようです。

 
この案は、2002年7月ごろに、反対派から譲歩を引き出すために、
自民党の推進派グループが考えだしたものです。
安易に別姓を選ぶカップルがいて危険だと、
反対派が危惧するので、それに配慮したものとなっています。

「家裁認可案」は、別姓の選択にいちじるしく不利ですし、
憲法24条に強く抵触しますから、批判が多いことは言うまでもないでしょう。
家裁の認可があれば、別姓を選択しても危険はない、
という主張に、根拠があるのではないです。
そもそも結婚するのに、裁判所の認可がいるというだけでも、
ずいぶんとエキセントリックなお話です。

通称制法案
「通称制法案」は、原則は同姓で、生来の苗字を使いたい場合、
婚前の苗字を「通称」として、戸籍に両方並べて記載します。
これにより、パスポートや運転免許書など、
各種の行政文書や身分証明書にも、婚氏と生来の苗字を
並べて記すことが、できるようになります。

通称使用の法制化は、おもに選択別姓に反対する人たちが、
「対案」として主張するものです。
反対派たちは、これでじゅうぶんだとくりかえし力説します。

ところが、この通称制法案は、いっしょに改正する必要のある法案が、
数百も出てくるなど、さまざまな点で技術的に
実現がむずかしいことが、専門家のあいだで言われています。
実際、いままで具体的に、国会で審議できるかたちの法案が
しめされたことはなく、いまだ構想の域を出ていないようで、
とても「法案がある」とは、呼べない状態にあります。

参考文献、資料

「民法改正の基礎知識」にもどる
「本館」にもどる
トップにもどる


inserted by FC2 system