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青年医師の心の内(1)
論争のはじまり
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それにしても、なんという専門家(研修医ですが)でしょう。
「とある青年医師の心の内」というウェブログの作者、
「けろすけ」と名乗る、お医者さまのことですが。
http://blog.livedoor.jp/kerosuke_i/

物議をかもすもとになったのは、05年7月21日の、
「夫婦別姓について」というエントリです。
なんでも、自分の勤めている病院の、事務員の女性のかたが、
結婚しても苗字を変えなかったそうで、それに憤慨しているのです。
「子どもが病気になるぞ」と恫喝していて、結婚改姓したくない、
すべての女性に対する、あからさまな糾弾です。
========
夫婦別姓を名乗ることを主張する女性へ。
自分の子どもがそれによってどれくらい悩まないといけなくなるのか、
ちょっとは考えろ! 病気になるぞ。まじで。
========

このように主張をしているだけでも、
じゅうぶん攻撃的ですが、それだけではなかったのです。
けろすけドクター、よほどご自分に確信があったのか、
あちこちの関連ウェブログに、このエントリの、
トラックバックを送りこんだのです。
自分でも、全部確認しきれないほど、たくさんのブログに送っていて、
これは、けろすけ氏から、議論をしかけてきたと見てよいでしょう。

しかも、だいぶあわてて送信したのか、
1ケ所にいくつもTBを、送ったところもありました。
たとえば、こちらには、4つ送りこまれています。
このことが、さらに印象を悪くして、TBを送られた側も、
議論を吹っかけられた、あるいは、ケンカを売られたと、
受け取ったかたが、たくさんいたのでした。

はじめに訊かれたのは、ご両親が別姓という理由で
病気になった子どもは、どれだけいるのか、
そして、自分ではどのくらい診ているのか、ということでした。
お医者という専門家が、子どもが病気になるぞと、
はっきり言っているのですから、確固たる根拠を
ぜひ聞きたいと、だれでも思うでしょう。

ところが、けろすけ氏の答えは、まったくの根拠薄弱で、
とても専門家のお答えとは、思えないしろものだったのです。
「親が別姓であること*だけ*で病気になった
子どもの例というのは、まぁ、感覚的にはありそうですが、
統計的に評価されていないので、おいておいて。」
[10. 2005年07月22日 23:14]

しかし、それでもけろすけ氏は、自信たっぷりに、
夫婦別姓は子どもにリスクがあると、言い続けるのでした。
どうやら、「おいておける」ものでは、とてもなくなってきたようです。


彼の主張への反例として、ご両親が別姓でも、子どもにとって、
物心ついたときからなので、それを当然と思って
疑問さえ感じないですよと、いくつかの事例や、
アンケート調査が紹介されていました。
http://blog.livedoor.jp/ioaueo/archives/10416428.html
http://d.hatena.ne.jp/azsynth/20050620#p4
http://homepage1.nifty.com/album/bessei/bessei65/65_05_kodomo.html

ところが、けろすけ氏は、アンケートの回答数が少ないとか、
母集団の記載や、配布数と回収数の比較がないとか、
バイアスがかかっているとか、あれこれ難くせをつけてきました。
そして、学問的にも全く考察に値しない、
などと言うのです。(No.28, No.29)

アンケートが、統計的にふじゅうぶんだとはねのける、
ご自分の論拠はなんなのかと言うと、
「つまり私の目の前に患者がいると言うことです。
あなたの前にはいない。私の前にはいる。わかりましたか?」
なのだそうです。[30. 2005年07月23日 22:14]

相手の出している事例や資料は、信用できないと言って、
それ以上の根拠をさらに要求するのに、
自分からは、その以下の根拠も出さないという、
疑似科学の特徴が現われてきました。

そのアンケートの信頼性が、そんなに不満だというなら、
もっと信頼できる調査を、独自になさってはどうかと思います。
アンケートを行なった「すすめよう! 民法改正ネットワーク」も、
「この調査は社会学的調査に基づくものではない。」
「客観的な研究機関がこうした調査に着手することを希望する」と
書いているのですし、望むところだと思います。

あるいは、すでに研究されている資料を、
調べることはしないのでしょうか?
いまでは、ほとんどの国で、選択別姓が認められていますから、
子どもへの影響があるなら、そうしたデータも取られているはずです。
けろすけ氏は、専門家なのですし、わたしのような
一般の人たちより、資料は手に入れやすいはずです。

彼は、患者さんへの守秘義務があるから、
統計が取れないのだ、などと言ってきました。(No.17)
しかし、ほかのもっとプライバシーの保護を必要とする
病気でさえも、守秘義務に抵触しないようにして、
データを公開されているものが、いくらでもあります。
なぜか彼はここで、検証への消極的態度をしめすのでした。

また、けろすけ氏は、20年後、30年後に、症状が現われるから、
現在はデータは存在しないのだ、とも言ってきました。
それなら、同姓強制から、選択別姓制に移行して、
20-30年くらいになる国が、ほかにいくつもあります。
いまの段階で、反証不可能なことを言っていないで、
それを検討すればよいはずです。


それから、「目の前にいる」のが「論拠」だというなら、
わたし(たち)だって、別姓でなんら不都合の
起きない子どもたちを、たくさん見ています。
(そして、けろすけ氏にも、見せてあげています。)
これは無視するのでしょうか?

彼は、たばこを引き合いに出して、かならずしも病気にならなくても、
避けたほうがよいことがあると、主張しています。(No.10, No.11など)
しかし、たばこと癌のかかりやすさについては、
確固たる統計データがありますし、たばこのどんな物質が
どう作用するかといった、直接の因果関係もはっきりしています。
別姓の子どもへの影響は、直接の因果はなおさらですが、
統計データすらどこにもありません。

また、子どもに悪影響だから怪しからん、というのなら、
子どもがいなければ、一向かまわないことになりそうです。
話題の発端となった事務のかたも、子どもは作らないのでした。
それにもかかわらず、子どもを理由に、非改姓結婚を
非難されるのは、おかしなことだと思います。

実際、「夫婦別姓について」のエントリのコメント欄でも、
自分たち夫婦は、子どもを作る予定がないが、
それでも、非改姓結婚してはいけないのかと、
訊いているかたもいました。(No.18, No.19)
ところが、けろすけ氏、これにはついに答えませんでした。

けろすけ氏は、子どもを作らないことを、
「生き物として失格」などと、エントリで書いています。
このような、優生思想じみた考えかたも、批判の余地がありますが、
「結婚したら、子どもを作らないと、生き物でない」
「子どもがいたら、リスクをさけるために、同姓にするべき。」
という理由づけで、正当化したいのかもしれないです。


もうおわかりと思いますが、専門家と名乗る人物が、
子どもが病気になるぞ、などと言ってはいますが、
その中身は、見ての通り、反対論者たちの、ありきたりの
「子どもがかわいそう」論と、どこも違いがないことがわかります。

その「こどもへのリスク論」は、反証不可能な仮説への執着や、
検証への消極的態度、都合の悪い事実や指摘への無視や、
自説の結論のために、都合のよい論拠だけ採用するといった、
典型的な疑似科学のロジックとなっています。

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