じつは、専業主婦という立場は、近代に入ってから
現われたと言ってよい、歴史の浅いものです。
近代より前においては、夫も妻も、さらには子どもさえも、
収入を得るために、働くのが一般的でした。
一家総出で働かないと、家計が支えられないからです。
専業主婦があらわれるのは、19世紀のはじめ、産業革命によって、
急速に台頭してきた、ブルジョワたちからでした。
有産階級の彼らは、じゅうぶんなお金があったので、
夫ひとりの収入で、家族全員が暮らせたので、
妻を収入の伴わない、家事に専念させることができたのでした。
労働者階級は、そんなお金はないので、夫婦共稼ぎが一般的でした。
妻が働かないで、主婦をやっている、というのは、
時代の最先端を行く、お金持ちのライフスタイルでしたから、
きっと、すばらしく見えたことでしょう。
「明治安田生命福祉研究所」の調査に見られるような、
いまもって受け継がれている、役割分担的な家庭に対するあこがれは、
おそらく、こうして出てきたのだろうと考えられます。
時代がくだり、社会全体が富んでくると、
ブルジョワのものだけだった、ライフスタイルは、
庶民のあいだにも広まっていくことになります。
欧米では戦間期、日本では、高度経済成長期に、
ほとんどすべての家庭で、夫が会社で働き、妻は家庭を守るという、
状況が定着することになります。
しかし、片働きというのは、生産性があまり高くないせいで、
社会全体から見れば、長く続かないようです。
どこの資本主義国でも、深刻な不況におちいって、
雇用や収入が不安定な時代がやってくると、
そのあいだに、妻も外に出て働く必要が出てきて、
共働きの家庭が、大半を占めるようになったのでした。
旧時代に作られた、役割分担的な家庭へのあこがれと、
女性も社会に出て働かないと、生活が維持できないという、
現実的要求は、はげしい軋轢を生むことになりました。
(いや、いまも生んでいるところがあります。)
その最たるものが、1970年代のアメリカ合衆国における、
ウーマン・リブ運動と言えるでしょう。
いずれにしても、専業主婦が、存在している期間や社会は、
歴史的には、かなりかぎられていることになります。
近代より前には、存在しなかったものに、
「本能」的になりたいとか、させたいとか、
わたしたちのご先祖は、どうやって思っていたのでしょうか?
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